
春 /Spring
ピーテル・ブリューゲル1世(下絵)Pieter Bruegel the Elder
ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版)Pieter van der Heyden
1570年
エッチング、エングレーヴィング、インク
17 x 21.7 cm
個人蔵
「ブリューゲル展 画家一族150年の系譜」で撮影可能展示室で撮影してきました。茶色がかっている点はそのためです・・・
ピーテル・ブリューゲル1世が下絵をした版画連作「四季」の中の春。版画の完成が1570年ですから、下絵自体はもう少し前のことだと思われます。1563年にアントゥルペンからブリュッセルに移り、1565年以降は農民画や寓意画を多く描くようになりました。1569年に40代という若さで亡くなっています。(生まれた年が正確ではないため)
春は3月から5月にかけての農村の風景画描かれています。
最前列は領主の庭園の造園風景。右上の方には作業の監督にきた領主夫人の姿が。その隣にいるのはお付きの女性でしょうか。足元には犬がいます。夫人に農民の1人が帽子をとり挨拶をしています。他の作業者は自分の作業に真剣そのもの。そしてたくましい身体も表現されています。黙々と丁寧に作業が続けれている様子が伝わってきます。
庭園右奥に描かれているのは家畜たち。大きなハサミを持って羊の毛刈りをしている4月のシーンです。
そして左上の方には貴族たちの船遊びの5月の風景。音楽を聞き、食べて飲んでと楽しんでいる姿が、前景に広がる農民の風景とあまりに対照的です。
このブリューゲルの版画は、彼が下絵を描き、それを彫師のピーテル・ファン・デル・ヘイデンが下絵から忠実に彫版に作り上げていきます。
ブリューゲルの版画は彼の死後もとても人気があり、息子のピーテル2世は版画を油彩画にして制作しました。この春もピーテル2世の油彩画で見ることができます。
【今日のアート用語】
農民画家
ブリューゲルは「農民画家」と言われますが、それは彼が農民だったからではありません。過去には農民だったからあのように愛情を持って農民の暮らしが描けたのだろうと解釈されていたことがあったようです。
ブリューゲルはアントワープやブリュッセルの大都会で生活しており、売れっ子の画家でした。自然への関心が高まり、友人たちと変装して農村へ出かけ、農民の暮らしに触れるようになりました。勤勉で貧しくてもユーモアや遊びを大切にする農民の姿を生き生きと描きました。