「聖母子と幼い洗礼者聖ヨハネ」
サンドロ・ボッティチェリ(イタリア、ルネサンスの画家)
1490年ごろー95年
この絵画は、聖母マリアが、洗礼者聖ヨハネに幼子イエスを手渡している様子を描いた作品です。
イエスと聖ヨハネは半年違いのまるで兄弟のような間柄。
というのは、ヨハネの母エリサベツとイエスの母マリアは歳は離れていますがいとこ同士なのです。
聖母マリアがエリサベツを訪問し、神の子を身ごもったことを伝えたとき、ヨハネはエリサベツの胎内で小躍りしてよろこんだと伝えられています。
聖母マリアもイエスもヨハネを信頼しきっている様子が2人の穏やかな表情から伺えませんか?
そしてヨハネも大事そうにイエスを抱きかかえようとしている。
現実には半年違いの子供が抱きかかえるなんて無理ですが、のちに自分の主となるイエスを、聖母マリアから任される、そんな大切な瞬間が描かれているのだと思います。
聖書が伝えているのは前半部分。(ピンクの部分です)
上記で述べた後半部分は、ボッティチェリが自身で物語を膨らませて描いた部分です。(聖母マリアがイエスをヨハネに抱きかかえさせようとしているところです)
私達は、前半部分の知識をもっていれば、このような絵画に出会ったとき理解できるわけです。
そして大切なのはアトリビュートヨハネは十字架を持っていたり、ラクダの毛皮を着て描かれます。
アトリビュートは、描かれている人物が誰なのかひと目でわかるように人物のそばに描かれていたり、持ち物として描かれるものです。
彼は、この作品のように聖母子とともに幼子として一緒に描かれる作品が数多くあります。
他にはどんな形で作品に登場するでしょうか?
大きくわけて2パターンあると思います。
一つは、洗礼者としてのヨハネ。
荒野で苦行していたり、イエスに洗礼をしている場面。
ヨハネはキリストのさきがけとして世にあらわれ、キリストの到来を予言し、キリストを救世主として讃えました。
幼くしてユダヤの荒野で苦行生活に入り、ラクダの毛衣を着て、腰に革の帯をしめ、いなごと野蜜を食べて生活していました。
人々はヨハネのもとへ出向いて懺悔し洗礼を受け、彼らに救世主の到来を告げていたのです。
イエス自身も成年になり、ヨルダン川でヨハネから洗礼を受けているからです。
もう一つは、へロデ王に捕まり、サロメの要求で首を切られて亡くなるヨハネ。
ヘロデ王とへロデアの結婚を非難したことで捕まり投獄されるヨハネ。
ヘロデ王に命じられ王女サロメは踊りを披露することになるのですが、そのほうびとして聖ヨハネの首が欲しいと言い出した。
盆に乗ったヨハネの首が描かれる絵があったり、まさに斬首のシーンがあったりとぞっとするような恐ろしい情景を描いた作品が多いです。
聖ヨハネが登場する絵画は多いので、これらのストーリーやアトリビュートを頭にいれておくと、作品に出会ったときにより深く楽しめると思いますよ。