東京上野の国立西洋美術館「ミケランジェロと理想の身体展」の展覧会レポートです。
こちらの展覧会は、ミケランジェロの2体の彫刻作品と、古代ギリシア・ローマ時代の芸術品とルネサンスの芸術品から、芸術家がどのように理想の男性の身体を表現したのかを紹介するものです。
古代からルネサンスへの男性美の表現の流れがわかる展示になっています。
古代ギリシアでは、人間の美しい体を、神々の姿、伝説上の英雄、当時活躍していた競技者や戦士などの彫刻で制作し、壺絵にその姿を描きました。
そしてローマではそのギリシアの理想的な人間像を引き継ぎます。
そしてルネサンスと呼ばれる15、16世紀では、そんな古代の芸術の人間の体への関心が高まります。
ルネサンスとはフランス語で「再生・復興」という意味を持った言葉です。
人間性ゆたかな古代文化とキリスト教美術の伝統が融合したのです。
そして、ミケランジェロの活躍していたイタリアでは、古代の彫刻の傑作「ラオコーン」が発掘されました。
ルネサンスの芸術家はその素晴らしい体の表現とまるで生きているような躍動感に驚き、自分たちの作品にも取り入れようとします。
開催概要
展覧会の構成
- 第1章 人間の時代ー美の規範、古代からルネサンスへ
- 第2章 ミケランジェロと男性美の理想
- 第3章 伝説上のミケランジェロ
展覧会の見どころ
ミケランジェロの傑作2点が初来日
ミケランジェロの現存する大理石彫刻は約40点。
その2点が東京に揃うのだからこれは見逃してはいけません!
その1つは20歳のミケランジェロの作った「若き洗礼者ヨハネ」
イエス・キリストより半年年上で、ヨルダン川で彼に洗礼を施したヨハネ。
荒野でラクダの毛皮を着て腰に革のベルトを巻き、いかなごと野蜜を食べて、祈る日々の修行生活を送っていました。
このヨハネ像は1936年のスペインの内戦で大きな被害を受け、長年の修復作業のかいあってよみかえりました。
修復後はスペインとイタリアでしか公開されていなかったのだそうです。
もう1つはチラシにもなっている「ダヴィテ=アポロ」。ミケランジェロ50代の円熟期の作品です。
こちらは旧約聖書のダヴィデ像か、ギリシャ神話のアポロ像なのかわかっていません。なぜならこの作品が未完だからです。
ダヴィデ像なら巨人ゴリアテを倒すために、投石器を手にしているはず。またアポロ像なら矢筒にある弓を取ろうとしているはず。
その肝心な部分が残されているためわかっていません。
ミケランジェロの2つの作品は古代彫刻からの伝統であるコントラポスト(片足に重心を載せて一歩を踏み出すようなポーズ)で作られています。
でも「ダヴィデ・アポロ」像はさらに体がひねり躍動感が加わっています。
これは発掘にも立ち会ったミケランジェロの古代ラオコーン像からの影響も大きいと言われています。
古代ギリシア・ローマ時代とルネサンスの比較
古代ギリシアの彫刻や壺絵、ローマ時代のポンペイの壁画など日本ではなかなか見ることのできない作品も展示されます。
古代ギリシアでは美しい人間の体は神々からの授かりもので、美しさを讃えることは神様を讃えることになりました。
美しさ=立派な人間 という価値観がありました。そのため美しい人間の体を、黄金比率を使い表現するためヌード作品が多く作られました。
そしてその美の理想像はローマ時代へも引き継がれます。
そして15世紀、16世紀のルネサンス時代の作品も比較されるように展示。
ルネサンスの芸術家たちは古代から何を学び、どのようにそれを生かして作品を作ったのか知ることができます。
まとめ
古代ギリシア・ローマの芸術とルネサンスの芸術を知ること、そしてその関係性を知ることは西洋美術史の中でもとても重要です。
なぜなら
1・古代ギリシア・ローマの芸術は西洋美術史の中でも”古典”として常にお手本のような存在であること
2・ルネサンスは古代の芸術から影響を受け、そこから科学的な遠近法や解剖学などで発展していく
3・美術史の流れではルネサンス以降も何度も古代の理想像に立ち戻る時があったこと
4・ルネサンス芸術はのちの時代の芸術家の憧れであって、イタリアに行き勉強することがとても重要だったこと
西洋美術史上では、古代とルネサンスの間には、キリスト教が世界の中心となっていく中世の時代が存在します。
そのため中世では体は隠されヌード表現はタブーとなります。
そこからルネサンスへのヌードの復活や力強い男性像の復活。
そんな美術の入れ代わりは歴史の流れに大きく影響されて変化しているのです。