アルベルト・カイプの『エジプトへの逃避途上の風景』【365日絵のなかで旅をする】

今回の旅は、聖書の風景と想像上の風景が融合した世界への旅です。

オランダの画家、アルベルト・カイプの描いた風景画の世界です。この絵には彼の絵の特徴が盛り込まれています、牛・動物・川・光に美しく照らされた景色・・・

アルベルト・カイプの案内で、この美しい光の中に吸い込まれるように、絵のなかを旅しましょう!

今日の案内人は、アルベルト・カイプ画家本人

こんにちは、私はアルベルト・カイプです。これから私が1650年頃に描いた絵の中に皆さんをお連れします。さあ、タイムスリップの旅に出発しましょう!

まず絵の左側を見てください。

ここには聖家族、すなわちヨセフ、マリア、そして幼いイエスが小道を旅している姿が見えます。彼らはヘロデ王の迫害を逃れて、ベツレペムからエジプトへ逃れる途中です。

私の想像力と絵筆を通じて、時間を超えたこの風景の目を引くのは輝かしい夕日です。この光景には私が影響を受けた画家の光の表現が生かされてるんです。夕日の光が景色全体に温かい色調を与え、まるで黄金色に輝いているように見えるでしょう?

さて、この小道をたどっていくと、ライン川の流域にいるような気分になります。岩や木々が特徴的なこの場所は、私の心の中に深く刻まれています。実際には行ったことはありませんが、多くの版画や他の画家たちの作品からインスピレーションを得て描きました。

そして、もっと遠くを見てみましょう。そこにはイタリアのジェノヴァ近くの海岸を思わせる風景が広がっています。海と空が溶け合うように広がり、優雅な海岸線に見えるよう描いています。この風景も、実際には行ったことがない場所ですが、イタリアを旅したオランダの画家たちの影響を受けて描いたものです。

そう、聖家族の後ろにある景色は、私の心に残る記憶や想像を反映しているのです。

宗教的なテーマが広がる風景画は、私たちオランダの画家にとって重要なジャンルでした。特にエジプトへの逃避の物語は、多くの人々に共感を呼ぶテーマであり、壮大な景色を描く良い機会でもあったんです。

このようにして私は自分の中にあるイメージと影響を受けた作品を融合させ、この絵を描きました。

私の絵の中を楽しんでいただけましたか?またいつでもこの風景に戻ってきてください。

アルベルト・カイプ

アルベルト・カイプは、オランダ南西部のドルドレヒト出身の画家の一族生まれ。父は教師で画家でした。

彼は生前は、故郷以外ではほとんど名前が知られておらず、他の地域に行くこともほとんどなかったようです。

しかし、ローマから帰国してイタリア風のオランダ風景画を確立した画家に大きな影響を受ける。そして外でたくさんスケッチをしてアトリエで描いていました。この絵のように、牛・動物・川・光に美しく照らされた景色が彼の絵の特徴です。

1640代後半から1650年代の10年間には風景画だけでなく肖像画としても活動。

1658年に地元で重要な地位にあった裕福な未亡人と結婚し大資産家となったことで、教会の執事や病院の理事などで活躍。そして自然に画家の活動に関心を持たなくなり1665年ごろには完全にやめてしまった。もったいない・・・


今回紹介した絵は、1650年頃に描かれたもの。実際にはイタリアに行ったことがありませんでしたが、イタリア風の風景画を描くことに長けていました。この絵はその代表的な例です。

カイプの絵の中には宗教的な場面を描いた風景画が約20点あり、そのうち少なくとも3点はこの絵と同じ、エジプトへの逃避(聖家族がエジプトへ逃げる場面)を描いています。

オランダでは、広い風景に宗教的な人物を描く手法はカイプが生きた時代もよく描かれていました。エジプトへの逃避の物語は特に人気がありました。それは多くのネーデルランド人が迫害から逃れた経験があり、このテーマが共感を呼んだためです。

ネーデルランド人が経験した迫害とは、16世紀から17世紀にかけての宗教的・政治的な弾圧のことです。当時、ネーデルランド(現在のオランダとベルギー)はスペインの支配下にあり、宗教改革を支持するプロテスタント信者が弾圧されました。多くのネーデルランド人がこの迫害から逃れるために避難や亡命を余儀なくされましたのです。

さらに、このエジプトへの逃避の物語は美しい風景を描くための良い機会でもあった。これもよく描かれた理由です。

タイトル:エジプトへの逃避途上の風景(Landscape with the Flight into Egypt)
画家:アルベルト・カイプ(Aelbert Cuyp 1620-1691)
制作年:1650年ごろ
所蔵美術館:メトロポリタン美術館、ニューヨーク


-365日絵のなかで”旅”をする, アート鑑賞, 旅するアート鑑賞, 風景画