フェルメール 旅するアート鑑賞

フェルメールの魅力をロンドンで体感:4つの絵画とその見どころ【旅するアート鑑賞】

2024-01-15

ロンドンにはフェルメールの絵が4枚あります。4枚の絵の共通点はなんだと思いますか?

どの絵も楽器が登場しています。それはヴァージナルとギター。

ロンドンでフェルメールの魅力を体感するために、4つの絵画とどこで見れるのかたっぷりご紹介します。

私は2023年9月、ロンドンで4枚を見ることができました。
しかしこれがいつでも見れるわけではない。ということでハードルが低い順からお届けします!

ナショナル・ギャラリーでフェルメール

A Lady Standing at a Virginal, image Wikimedia ©︎ Public Domain
A Lady Seated at a Virginal, Image Wikimedia ©︎ Public Domain

ロンドンに行く美術好きなら、きっとこちらの美術館には行かれますよね?

トラファルガー・スクエアに堂々と立つ国立の美術館は、休館日なし(クリスマス周辺と元旦は除いて)、入場は無料(満足したら寄付もしてね!)と美術を愛する私たちをいつでも大きな手を広げて待ってくれています。

ナショナルギャラリーにはフェルメール作品が2枚あります。

ヴァージナルの前に立つ女が恋に夢中の女性なら、座わっているのは男性を待ち受ける女性とも考えられます。

まずは、「左のヴァージナルの前に立つ女」。
背景のキューピットの絵が単なる音楽の場面ではなくて恋人を待っている女性を表してます。しかも矢が彼女の頭に刺さってる。キューピットの矢に当てられた人は恋の苦しみから逃れらないのです。

そして「恋人は一人だけを愛するべき」というモットーとキューピットの絵が関連しているのだとか。とすると彼女が椅子に座らずに立っているのは、恋人のために空けてあるということ?

嬉しそうにも悲しそうにも見えない女性からは恋に夢中の女性にはあまり見えない。

右の「ヴァージナルの前に座る女」はもう少し複雑です。後ろにかけられている絵は、フェルメールよりも少し前に活躍していたディルク・ファン・バビューレンの「とりもち女」

「取りもち女」というのは愛の売買がテーマです。
金貨を渡す真ん中の男は客
リュートを持つ若い女は娼婦
被り物をした老婆は斡旋者

ということでこの部屋はそんな怪しげな場所だと言っているのかもしれません。もしくは若くて清らかな女性の愛と、享楽の愛を比較しているのか?

ナショナル・ギャラリーのサイトで絵を確認!

「ヴァージナルの前に立つ女」A Lady Standing at a Virginal
1670-1673年ごろ 51.8x45.2
この絵は1892年に購入されて美術館の所蔵作品。
https://www.nationalgallery.org.uk/paintings/johannes-vermeer-a-young-woman-standing-at-a-virginal

「ヴァージナルの前に座る女」A Lady Seated at a Virginal
1670-1675年ごろ 51.5x45.5
この絵は1910年に遺贈でナショナル・ギャラリーの所蔵作品。
https://www.nationalgallery.org.uk/paintings/johannes-vermeer-a-young-woman-seated-at-a-virginal

ナショナル・ギャラリーで2枚を一緒に味わう

美術館の展示室ではこのように2枚並んで他のオランダの画家の作品と飾られていました。
2枚を並べて一緒に見ることができるのはもしかしたら貴重なのかもしれません。作品が他の美術館に貸し出しされるときもありますし、展示方法の変更で分かれて飾られることもあるかも。

2枚の絵は描かれている場面、ヴァージナルも登場し、キャンバスの大きさも似ているところから対になっているように考えられています。

しかし「もっと知りたいフェルメール」小林頼子著によると、結構違うところがあるようです。女性の服の可愛いちょうちん袖の描き方が、座る女の方が明らかに平坦で、晩年の作品だと言われています。確かにフェルメールの特徴の光の粒が少ないように見えます。

とにかく人気の作品なので常に人がたくさんいて、さらにこの小ささなので独り占めすることは難しそう・・・
美術館は広くお目当ての作品はまず先に見ておくことをおすすめします!

美術館は2024年5月10日の200年祭に向けて工事が行われていました!

ナショナル・ギャラリー、ロンドン

The National Gallery, London ナショナルギャラリーロンドン
Trafalgar Square, London
公式ホームページ:https://www.nationalgallery.org.uk/
最寄駅は地下鉄チャリングクロス駅


ケンウッドハウスでフェルメール

The Guitar Player, Image Wikimedia ©︎ Public Domain

ケンウッドハウスにある一枚はこちらの絵。「ギターを弾く女」

フェルメールの絵でお馴染みの、黒い斑点がある毛皮がついた黄色のガウンを着た女性がギターを弾いています。

フェルメールの晩年の作品で、出来栄えが良くないと評価の低い見方もあります。描き方が簡略化されていて、全体的に奥行きが感じられず平面的など。フェルメールの室内画では左の窓からの光が差し込むのが定番ですが、この絵では右からの光に、女性が顔を左に向けているため暗く影になっています。

でも、フェルメールの描いた状態をずっと保っているという他の絵の大きく違う点があるそうです。

生物学者の福岡伸一先生の本「フェルメール光の王国」の中に、この絵を管理するナショナル・ヘリテージ財団の保存専門員から聞いた話が書かれています。それによると、絵画は昔からライン(lined)というキャンバスの裏側にもう一枚キャンバスを張り合わせるて補強する処理をするそうです。なぜなら、徐々に劣化していくキャンバスによって絵の具が剥がれやすくなるためです。

しかし、その処理では確実に接着させるために、アイロンのように熱をかけていたそうなのです。絵自体は補強されるが、熱は絵の具を溶かし凸凹をなくしオリジナルの作品の質感をフラットにしてしまうそうです・・・

とこれが多くの絵の常識なのですが、「ギターを弾く女」は裏打ちの布が貼られていないし、キャンバスを張る木枠が外された跡もないそうです。フェルメールの状態をずっと保っていると言われるのはこのような理由からです。

ケンウッドハウスのサイトで絵を確認!
「ギターを弾く女」The Guitar Player
1673-74 53x46.3
https://www.english-heritage.org.uk/visit/places/kenwood/history-stories-kenwood/collections/

邸宅美術館ケンウッド・ハウス

今回私はロンドンの北ハイゲイトというエリアに泊まっていました。選んだ理由の一つはケンウッドハウスにも割と近いからです。

9月14日、ゲストハウスを出てカフェで朝食をとり、高級住宅地ハムステッドを通り抜け1時間近くかけてケンウッドにつきました。

ケンウッドハウスは、邸宅美術館で、現在はナショナルヘリテージ財団が管理運営している施設です。所有者が幾度も変わり、何度か改築されたのち、現在のような建物になったのは、18世紀末のこと。

そして1925年、この場所を購入したのは、ギネスビール設立者の曾孫のエドワード・セシル・ギネス。ギネスは、アイルランドのダブリンで誕生した、黒スタウトと呼ばれるビールを生産しています。

邸宅に自分のアートコレクションを展示することになったのですが、そのわずか3年で死亡しています。彼の死後、邸宅と74エーカー(30ヘクタール)に及ぶ敷地とコレクションが1927年に国に寄贈されました。

コレクションは、18世紀のイギリスの肖像画が多く、その次オランダ・フランドルの絵画。フェルメールの絵の他に、レンブラントの自画像、ヴァン・ダイク、ターナーなど名画が揃っています。行ったときはレノルズのミニ展覧会をしていました。

なんとこの邸宅美術館の入場は無料です。驚いてスタッフの方に聞き返したら、ギネス氏の希望だったのだとか。ということでこの美しいインテリアのもとで絵をじっくりと堪能し、寄付をBoxに入れました。

スタッフの方も積極的に声をかけてくださって絵の説明などもしてくれました。私は美術館も好きですが、邸宅で見るのが一番好き。絵はもともと家に飾られていたものだからです。

ケンウッドハウスで絵を楽しんだ後は、広い庭園の散策もおすすめ。リスが木を駆け登っていく様子を見たり、ヘンリームーアの彫刻を見つめながらベンチに座ってぼーとすることもできます。

ケンウッドハウスの入り口。ワクワクの瞬間です!
ガーデンを散策中建物が美しく見えるスポットへ。あーこれがいつも見ていた景色だ!と感激。

ケンウッド・ハウス基本情報

Kenwood House ケンウッド・ハウス 
Hampstead Lane, Hampstead, Greater London, NW3 7JR
公式サイト:https://www.english-heritage.org.uk/visit/places/kenwood/
地下鉄 ゴルダーズ・グリーン駅(Golders Green)もしくは アーチウェイ(Archway)からバス bus 210
私はハイゲイト(Highgate)方面から住宅地を通り抜けるように歩きました。


バッキンガム・パレスでフェルメール

Lady at the Virginals with a Gentleman, Image Wikimedia ©︎ Public Domain

バッキンガムパレスにあるのは、1762年英国王ジョージ3世(1738-1820)が購入したこちらの絵。

実はこの絵購入した時はF・ヴァンーミーリスの作品として誤認されていて、1866年にフェルメールの作品として特定された経緯があります。描かれた年度ははっきりしておらず1662−64年という見方が一般的。

この絵は壁にかかる絵より鏡が特徴的。この鏡は背中を向けている女性の顔が写っています。私たちからはそんなそぶりは全く見えないのに顔は男性の方に向けていることがわかりちょっとドキドキさせます。

さらに、画家が描いているのことを示すように、イーゼルの足がぼんやりと写っています。まるでヤン・ファン・エイクの描いた「アルノルフィーニの肖像」のよう。

ヴァージナルの蓋には「MUSICA LETITIAE CO[ME]S / MEDICINA DOLOR[IS]」という銘があります。これは「音楽は喜びの伴侶であり、悲しみの薬」という意味です。男性と若い女性の関係を示しているのでしょうか?

王室コレクションのサイトで確認!
「音楽の稽古」Lady at the Virginals with a Gentleman
1660年代はじめごろ 74.1x64.6
https://www.rct.uk/collection/themes/exhibitions/masterpieces-from-buckingham-palace/the-queens-gallery-buckingham/lady-at-the-virginals-with-a-gentleman

ピクチャー・ギャラリーのフェルメール

Lady at the Virginals with a Gentleman, Image Wikimedia ©︎ Public Domain

バッキンガム・パレス内は写真撮影は許可されていません。

この絵を見るには少しハードルが高くなります。それは公開されている時期が限られていること!一般的には夏の長期公開時期とそれ以外の特別ツアーで内部の一部を見ることができるツアーが開催されています。

フェルメールは英国王室コレクションなのですが、クイーンズ・ギャラリーというバッキンガムパレスとは別の美術館で展示されるのではなく、バッキンガム・パレス内の、ピクチャー・ギャラリーという公式の間に展示されています。そのため普段はなかなか見ることができない!!というわけです。

今回私は、9月11日のツアーに参加して見学してきました。チケット購入は8月。

世界各国から訪れた観光客と共に回るツアーは面白かったです。各回かなりの人数の人々が同時に入場します。各自自分の言語のオーディオガイドを持って回るセルフツアーです。もちろん日本語もちゃんとあり!

ロンドンは9月になっても暑く、この日も例外ではありません。ツアースタートのガイドさんが水を持って入ることを許可していたくらいです。

ピクチャー・ギャラリーは長い廊下のような部屋。その壁の右にも左にも有名な画家の作品がたくさん飾られています。落ち着いてゆっくりと一枚一枚見てフェルメールも見逃さないでください!!

2024年のスケジュールもすでに公開されていて、チケット購入も始まっています。
2024年7月13日〜9月29日
月曜日、木曜日〜日曜日
9時45分〜14時45分

https://www.rct.uk/event/the-state-rooms-and-garden-highlights-tour-07-2024#/

料金は高くなりますがこちらは別の時期もやっているツアーもあります
https://www.rct.uk/whatson/event/814554/Exclusive-Guided-Tour,-Buckingham-Palace

バッキンガムパレス

Royal Collection Trust, バッキンガム、宮殿王室コレクション
公式サイト:https://www.rct.uk/
バッキンガム・パレスは四方に最寄駅があるので便利。私はグリーンパーク駅(Green Park)でおり公園の中を歩きました。
美しい芝生には人がたくさんピクニックしたりのんびりしたりして気分が良かったですよ。

あとがき

ロンドンでフェルメールの絵を4枚見てまわるという【旅するアート鑑賞】をお届けしました!

私は今回プランを立て4枚を見ることができたわけですが、いつもこんなに上手くいくとは限りません。貸し出されて他の国の美術館で楽しまれているかもしれません。自分の都合でタイミングを逃してしまうこともあります。

アート作品との出会いも、一期一会のように何度も見ることができないことの方が多い。だからこそ鑑賞時間を、鑑賞時間を作り出しているもの全てを大切にしたいです。

本やネット上では知ることができなかった額縁や展示室の様子、美術館の雰囲気、そして世界中から今集まったたまたま一緒に見ている人たち。すべてが鑑賞時間を構成していると感じています。


ちなみに、フェルメールの絵はイギリスにはあともう1枚エジンバラに「マルタとマリアの家のキリスト」という宗教をテーマにした絵があります。

National Gallery of Scotland, Edinburgh  スコットランド・ナショナル・ギャラリー、エディンバラ
「マルタとマリアの家のキリスト」
https://www.nationalgalleries.org/art-and-artists/5539

そしてイギリスのお隣のアイルランド、ダブリンにも「手紙を書く夫人と召使い」という美しい絵があります。
近い場所にあるものの私もアイルランドにはまだ一度も行ったことがありません。

この作品もぜひ所蔵美術館で見てみたい!

National Gallery of Ireland, Dublin  アイルランド・ナショナル・ギャラリー、ダブリン
「手紙を書く婦人と召使い」 
https://www.nationalgallery.ie/art-and-artists/highlights-collection/woman-writing-letter-her-maid-johannes-vermeer-1632-1675

▼記事の中でも書いたおすすめのフェルメールの本をこちらでご紹介しています。

▼2023年にアムステルダム国立美術館で開催された「フェルメール展」の舞台裏を描いたドキュメンタリー映画が2024年公開。

▼フェルメールの世界観を映画にした「チューリップ・フィーバー」。原作本もおすすめです。



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