ベルト・モリゾが描く姉エドマとパリのテラス『植木に水をやる若い女性』【365日絵のなかで旅をする】

今回の旅は19世紀のパリ。印象派の女性画家の1人、ベルト・モリゾのパリの自宅テラスが舞台です。

案内してくれるのは、ベルトの姉で画家でもあったエドマ・モリゾ(1839-1921)。

2人は一緒に画家を目指して励ましあっていた期間が長かったのですが、エドマが結婚を選び画家をやめた時に親密な関係は終わったようです。でもモリゾの絵の中にはたびたびエドマが登場しています。

今日の絵もその一枚。エドマが結婚して7年後に描かれている絵です。

絵のなかを旅する案内人は、ベルト・モリゾの姉エドマ

今日は私の妹、ベルト・モリゾが描いた作品を通じて、19世紀のパリで女性画家がどのように感じ、生きていたかをお話しします。ベルトは印象派の重要な画家の一人で、彼女ならではのスタイルで女性たちの日常と自然の美しさを表現しました。

この1876年の作品には、私が彼女のパリの自宅テラスで過ごすひとときが描かれています。背後からの視点で描かれた私の姿は、18世紀の画家アントワーヌ・ヴァトーに影響を受けていて、観る人が私の内面に深く没入できるよう意図されています。家事に勤しむ静かな私の姿から、日々の生活の美しさと穏やかさが感じられると感じていただけますか?

当時は女性アーティストには屋外で自由に絵を描くことが許されなかったため、ベルトは家の内外をつなぐテラスを舞台に選びました。この場所は、彼女が直面した制約と創造を育むバランスの象徴だったのです。素早く、力強い筆遣いで描かれた背景は、移り変わる自然の光とパリの天気を捉え、私の姿に安定感と愛情をもたらしています。

私たち姉妹は昔は画家として一緒に歩んた時期があります。でも私が家庭生活を選んだことで、それぞれ異なる道で生きることになりました。でも、ベルトの絵の中では、私はいつまでもアーティストの一部として存在しています。


ベルト・モリゾ:新しい技法でパリの日常生活を女性の目線で表現した画家

ベルト・モリゾ (Berthe Morisot)
1841年〜1895年
フランスの画家

今は、女性や男性の目線などとカテゴライズしてしまうことは良くないとは思いますが、女性の選択肢が極端に少なかった時代、母になり画家としても活躍したベルト・モリゾのことを語る時にはそのことに触れないわけにはいかないと思います。

ベルト・モリゾは裕福な高級官僚の家に生まれ、2歳上の姉エドマと画家になることを目指していました。当時の美術界の主流でだった古典的な絵画を教えてくれる画家の元でも学んでいたのですが、物足りなくなりカミーユ・コローの元で風景画を学び、野外での制作も知っていきます。

これがのちに前衛的な描き方になってくる最初のきっかけだったのかもしれません。

そしてエデュアール・マネと出会い、モデルとして画家として強い影響を与え合います。

マネは革新的な存在として知られていて作品や思想は多くの画家に新しい視点を提供していました。それは伝統的な画題やスタイルにとらわれず、もっと自由に自己表現をすることの重要性。ベルトがマネのモデルとして絵に登場することもあり、その過程で彼の手法や考え方を間近で学ぶ機会を得ていました。ベルトはマネに屋外で描くことを教えました。

マネとの出会いは画家の視野を広げ、独自の芸術的アイデンティティを確立する助けとなったはず。パリのサロンで6年連続入賞するなど華々しい活躍もしていました

1874年の第1回目の印象派展にマネの反対を押し切って作品を出し、その後も出産のため出品できなかった1回をのぞいて計7回参加し続けます。ベルトは自分の芸術的な判断を信じて、当時の主流から大きく離れた新しい芸術運動への参加を選んだわけです。

女性としての役割は母であることが一番だった時代に画家として自立することは相当大変だったはずです。女性が1人で自由に出かけたり、野外で絵を描くこともできない時代です。

ベルトは、当時の女性アーティストが直面した挑戦とそれを乗り越える強さを繊細かつ力強く描き出している。

それが今でも私たちの目に美しく強く映ります。

タイトル:植木に水をやる若い女性(Young Woman Watering a Shrub)
画家:ベルト・モリゾ(Berthe Morisot 1841-1895)
制作年:1883年
所蔵美術館:バージニア美術館、アメリカ



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