『ソロモンの審判』ニコラ・プッサン【365日絵のなかで旅をする】

今回の旅は「見事な裁き、ソロモンの審判を見にいく旅」

古代イスラエルの王、ソロモンはダヴィデ王の息子で、人々を守るため巨人ゴリアテを倒した勇者の子としても知られています。でもソロモンの真の偉大さは、彼の無比の知恵と公正さにありました。

見る絵画と言えばこの人ニコラ・プッサンが描いた「ソロモンの審判」を通じて、古代の裁きとその智慧を探りにいく旅です。

古代の裁き、ソロモンの智慧

物語は、ソロモン王のもとに赤ん坊の母親を自称する2人の女性が現れるところから始まります。

2人は同じ家で生活していて、ほぼ同時期に出産しましたが、悲劇的にも一人の赤ん坊が夜に亡くなってしまいます。生き残った子供は自分の子供も!!と主張する両者の前で、ソロモンは一つの試練を用意するのです。

ソロモンはどんな裁きを下すのか。見事な裁きを見てみましょう。

プッサンの解釈:物語を生きる絵

プッサンはこの古典的な物語を、緊張感溢れるシーンとして描いています。

場面は玉座と大理石の柱のある宮殿のような場所に多くの人が集まっています。どうなるのか気にかけて見ている人、背を向けて怖がっている人もいます。

真ん中の玉座にどんと座って、背筋を伸ばして座る姿勢から公正なソロモンが表現されています。

彼は兵士に赤ちゃんを半分に切り2人の母親で分けろと命じたのです。かわいそうな赤ちゃんは宙吊りにされています。

ソロモンはどうしてこんな命令を?

ソロモンの命令は赤ちゃんを殺すためではありません。どちらかが嘘をついているはずなので、女性たちの反応を見たのです。

プッサンの解釈を見ながら裁判の続きを見て見ましょう。

黄色い服を着た左の女性はソロモン王の方を向いて手を広げて赤ちゃんを殺さないで!と懇願している。殺されるくらいなら子供を手放すことになっても構わないととにかく必死な感じです。

ソロモンの審判は?

指を見て。懇願している女性を指差して、左の女性からは指を逸らしている。赤ちゃんを女性に帰すように命じたのです。

ソロモンはどうやって分かったのでしょうか?

右の女性は怒るように左の女性を睨み指で刺している。赤ちゃんがどうなろうと関係ないのです。

こうやって少し大げさな身振りで、プッサンは人物の感情を表現しています。彼は絵を描く前に小さなセットを作り、ろう人形に濡れた紙や薄い布で作った衣装をつけた登場人物を配置して、ポーズや構図や影も考えました。ギリシヤやローマの彫刻を描いたり、たくさんのデッサンをしたりして準備を重ねた上で絵を描いていました。

描かれた色からも分かります。ソロモンには目立つ上に威圧するような赤を着せ着重要な人物であることを表しています。左の真実を語った女性は明るい色服を、嘘をついた女性の暗い色の服とを対比させています。

フランス生まれのイタリアで活躍した画家

プッサンは1594年に生まれたフランス人の画家。フランスの美の基礎を作った画家としてとても尊敬されている画家です。

農業主として豊かな暮らしてしていた家で生まれたプッサンは、良い教育を受けた上で、親の期待を裏切って画家を目指すことになります。当時王立絵画彫刻アカデミーもないフランスでは、画家は芸術家より職人という扱いだったからです。

若い時当時の画家たちの憧れ、イタリアの巨匠たちの作品に影響を受けて、2度ほどローマを目指しましたが金銭的な事情から挫折。

その後パトロンのおかげでイタリアへ行きが叶い、活躍していく中でイタリアだけでなくフランスでも有名な画家になります。1640年にルイ13世の国王付き首席画家に。チュイリー宮殿の敷地に館が与えられるほど。

結局フランスには2年ほどしかおらず、家族もいる大好きなイタリアに戻りましたが、フランスに友人や顧客がいたことでプッサンの絵はフランス絵画にも影響を与えるのです。

イタリアに遅れること80年ほど。フランス王立彫刻絵画アカデミーが1648年に設立。そこに関わったのがプッサンのもとで学んだシャルル・ル・ルブランだった。

「感覚よりも知性に訴えるために、色彩よりもファルムと構成を強調するべきである」というプッサンの指針がアカデミーに採用されているのです。

プッサンの絵の中のソロモンが私たちに教えてくれること

プッサンが古典世界に強い憧れを持っていたように、この作品から私たちが教えられることは?

本当の母親を見極めるためにソロモン王が実行した方法。表面的な証言や見た目などではなくて、深い愛情や真実を知るには時には直感や心理的な洞察が必要であること。

パッとした見た目や、簡単、分かりやすくまとめられことではなかなか本質には辿り着けないと思うのです。

確かに今は検索したらサッと答えが出てくるけれど、自分の頭で考えて導き出したことや、自分で見つけたことって本当に馬鹿にできないくらい頭に残っているんです。普段から物事を丁寧に見ることや、考えることが大切なのでは。プッサンの絵は教えてくれています。

タイトル:ソロモンの審判(The Judgement of Solomon)
画家:ニコラ・プッサン(Nicolas Poussin (1594-1665年))
制作年:1649年
所蔵館:ルーヴル美術館、パリ


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