『モネ連作の情景』でモネが捉える光と影の変化を見よう!展覧会レポート

モネといえば連作!!「睡蓮」「積みわら」「ロンドンの橋」など連作をテーマにした大型展覧会が始まりました。この記事は「モネ連作の情景」の展覧会レポートです。

同じ風景や物を異なる時間帯や光の条件で描いた絵を一度に比較しながら見れる。モネが描こうとした世界を感じるのにとても良い展覧会でした。見ている私たちも一緒にその場にいるかのような感覚を与えてくれるモネの絵。彼はどんなアプローチを重ねてきたのだろう・・・その秘密を見て確認するような時間になりました。

世界各地の美術館から日本に集められた豪華な展覧会!モネの絵が好きな人はぜひ足を運んでみていただきたいです。

見どころ、展覧会の内容、概要と感想と順番に書いていきます。

見どころ1:連作を比較して見れること

「モネ連作の情景」展の1番の見どころは、普段はバラバラの美術館にある作品が、並べられたり、同じ部屋に展示してあって比較して見れることです。


モネの連作は、同じ風景や物を異なる時間帯や光の条件で描いたものですが、一つ一つの作品を見るだけでは全体的な美しさやモネが意図したことを完全に理解すること難しいです。でも一緒に展示されることで、創造過程や何を絵で私たちに伝えたかったのかよくわかるのです。

また一つ一つの作品の細かい違いや共通点を比較することができる。そうすることで彼の画家としての大きな強み、独特の色彩感覚や光の扱いを観察することができるのです。

例えばロンドンのウォータールー橋を描いたこちらの2枚。
左はアイルランド、ダブリンのヒュー・レインギャラリーの『ウォータールー橋、曇り』1900年
右はアメリカ、ワシントン・ナショナル・ギャラリーの『ウォータールー橋、夕暮れ』1904年

ワシントンナショナルギャラリーからはもう一枚日没のシーンの絵もきているので、3枚をじっくり比較したいですね。

この比較することが可能なのは、世界中の美術館から作品が集められているから!
実際にどんな美術館から集められているのか気になって調べて見ました。

気になると調べずにはいられないのです笑

東京展作品リストから調べたところ、42館から63作品が集まっています。(美術館だけでなく企業が持つコレクションも含まれています)
内訳を表にしました!

注意)展覧会の図録を見ると大阪展と作品の入れ替わりがあるようです。

日本
三重県立美術館
国立西洋美術館
吉野石膏コレクション
東京富士美術館
福田美術館
茨城県近代美術館
ポーラ美術館
大原美術館
福島県立美術館
上原美術館

イギリス
スコットランドナショナルギャラリー(エディンバラ)
サウサンプトン市立美術館
グラスゴー・ライフ・ミュージアム(グラスゴー)
クライスラー美術館(ノーフォーク)
グリン・ヴィヴィアン美術館(ウェールズ、スウォンジー)
ニュー・アート・ギャラリー・ウォルソール(ウェストミッドランズ)

フランス
モナコ王室コレクション
モナコ国立新美術館
ウジェーヌ・ブーダン美術館(オンフルール)
リヨン美術館
モルレー美術館(ブルターニュ、モルレー)
ヴンター・リンデン美術館(コルマール)


オランダ
ボイマンス・ファン・ベーニングン美術館(ロッテルダム)
アムステルダム市立美術館
デン・ハーグ美術館
クレラー・ミュラー美術館(オッテルロー)
ザーンス博物館(ザーンダム)
トゥウェンテ国立美術館(エンスヘデ)

ドイツ
シュテーデル美術館(フランクフルト)
アルベルティヌム美術館(ドレスデン)
ハッソ・プラットナー・コレクション(バルベリーニ美術館、ポツダム)
ファン・デア・ハイト美術館(ヴィパータール)

アメリカ
メトロポリタン美術館(ニューヨーク)
ワシントンナショナルギャラリー
ロサンゼルス・カウンティ美術館
コロンバス美術館(オハイオ州)

スイス
ジュネーブ美術歴史博物館
ラングマット美術館(バーデン)

デンマーク
ニュー・カールスベア美術館(コペンハーゲン)

ハンガリー
ブタペスト国立美術館

イスラエル
ヘヒト美術館(ハイファ)

アイルランド
ヒューレインギャラリー(ダブリン)

いやーすごいですね・・・知らない美術館がたくさんあります


見どころ2:時代やテーマに集中しながらモネの強い関心を感じることができる

入り口すぐのジヴェルニーの池を感じられるような音と光の体感展示

展覧会はこの5つの章から組み立てられています。そのため、画家としての歩みを時代から、そして取り組んだテーマに見ている私たちも集中して絵を見ることができました。

1 印象派以前のモネ
2 印象派の画家、モネ
3 テーマへの集中
4 連作の画家、モネ
5 「 睡蓮」とジヴェルニーの庭

モネはどうやって光と自然を捉えたのか?
こんな点に意識をしながら見ていきましょう。

光の変化が風景に与える影響に強い関心
異なる時刻や天候の下で同じ風景を繰り返し描き、光の変化が色彩や雰囲気にどのような影響を及ぼすかを探求しました。

同一の対象の繰り返し描画
同じ対象を様々な時間帯や天候の下で描きました。これにより、同一の対象が異なる光の条件下でどのように変化するかを視覚的に示しました。

色彩とタッチの使用
色彩とブラシのタッチを用いて光の効果を表現しました。彼は色を混ぜ合わせるのではなく、純粋な色を並べることで、光の輝きや影の深みを捉えました。

瞬間の捉え方
特定の瞬間の光や雰囲気を捉えることに力を注ぎ、それによって一時的で流動的な自然の美しさを表現しました。

※展覧会入り口を入ってすぐ、ジヴェルニーの睡蓮の家を感じられるような、音と光の池の再現展示がありました。モネが捉えようとした世界を感じてみよう

展覧会の内容

ここからは、5つのパートに分かれていた5章の展覧会のセクションを簡単にご紹介していきますね。

1 印象派以前のモネ

この章では、印象派として世に出ていく前の作品を紹介しています。
モネがどんなことをしていたのか簡単に見ていきましょう。

1840年にパリで生まれ、幼少期をフランス北部のル・アーヴルで過ごしたモネは17歳から油彩画を始め、カリカチュアという風刺画の制作と販売にも取り組んでいました。

1859年にはパリで美術を学び、ピサロと出会い一時は兵役でアルジェリアにいました。除隊後、パリでシャルル・グレールの画塾に入り、フレデリック・バジール、アルフレッド・シスレー、ピエール=オーギュスト・ルノワールらと出会います。

1865年にサロン(官展)にデビューし、初期の成功を収めたものの、その後は審査が厳しくなり落選が続きました。1870年にはカミーユと結婚し、普仏戦争中にロンドンへ家族と共に避難しました。戦後はオランダに滞在し、その後フランスに戻りました。

今回の注目の一つは、サロンで落選したという「昼食」という絵です。イメージ画像になっている絵です。これまでネット上や写真でしか見たことがなかったので、全体的に平坦な印象を持っていた作品でしたが実物は光が綺麗でとても美しい作品でした。左の大きな窓から室内に入ってくる強い光がテーブルをどのように照らしているのかぜひじっくりと味わってください。

桃の入った瓶という静物画も美しかったです。瓶の光の反射と大理石のテーブルに写り込む瓶。さっと描いているように見えるのに離れてみるとリアルさが際立ちます。

フランス、ノルマンディーのサン=タドレスやオランダ、ザーンダムの風景も登場です。すでにここから連作の兆しが見えています。

そして、モネの絵では少ない肖像画もありました。

2 印象派の画家、モネ

1874年はモネや印象派の画家たちにとって記念すべき、「第1回印象派展」が開催された年です。
この章ではその前後のモネの作品が登場します。

1871年から、アルジャントゥイユで暮らし始め、マネやルノワールと一緒に絵を描きます。展覧会には出ていませんが、この頃にマネとルノワールが描いたモネ一家の絵も微笑ましいです。

画商ポール・デュラン=リュエルの支援で生活が安定しましたが、サロン落選を経験したモネと仲間たちは、1874年に「第1回印象派展」を開催し、この展示会でのモネの作品「印象、日の出」から”印象主義”という名が生まれたのは有名ですよね。

1870年代に風景画に焦点を当て、パリのサン=ラザール駅の連作などを描きました。しかし、1875年頃から経済的困難に直面し、次男ミシェルの誕生後、家族でヴェトゥイユへ移りました。

妻カミーユは1879年に病没し、モネは精神的にも困難な時期を過ごしました。アリス・オシュデに支えられながら、モネは1870年代から80年代にかけてセーヌ川流域を中心に作品を制作し、四季折々の風景を明るい色彩と点描の筆致で描き続けました。

モネが水面の光のきらめきを捉えるために使っていたアトリエ船も登場します。
さまざまな季節の風景、モネの好きな川や海の風景、教会の建物や風景の中に家族なのか?人物も描かれています。

いつも頭の片隅にモネの絵を見ていたいのは、モネは現場で描くことにこだわった人だということ!描かれているのは暖かい穏やかな日ばかりじゃないんです。「アルジャントゥイュの雪」の大雪が積もる中に太陽の光が差し込む美しい景色は、雪の中で座り続け光を捉えようと頑張っていたはずなのです。

3 テーマへの集中

3章はモネが選んだテーマに意識を向けようと集められたセクションです。

モネは描く題材を求めてヨーロッパ各地を旅し、イギリス、オランダ、ノルマンディー、ブルターニュ、地中海沿岸などを訪れました。作品名には地名がたくさん登場します。こんなにあちこちに行けるようになったのは、19世紀の蒸気船や鉄道網の発達のおかげです。モネは贅沢に数か月をその地で過ごし、自然風景を集中して描きました。

たとえば、フランス、ノルマンディー地方のプールヴィルでは、最初は断崖などの特徴的な造形に着目していました。15年後に再び行った時には、海や空の変化に焦点を当てました。

旅先で同じ風景を異なる季節や天候、時刻に描き、変わりゆく自然を描写しました。こんな繰り返しの取り組みが、「連作」という制作手法へつながっていきました。

この場所をモネはどのように選んだのかを想像しながら見ていきます。
そしてここでも頭の片隅に置いておきたいのは、今のようにネットもSNSもない時代。ここ良さそう!行ってみよう!と調べることができないし、交通も不便です。イーゼルやキャンバス、絵の具道具をかつぎ、自分の足で歩き回って探し、何日も通って製作するのです。

4 連作の画家、モネ

「チャリング・クロス橋、テムズ川」この絵光が本当に美しかったです。

ここからはモネの連作の有名な作品が次々と登場します。
途中一つの展示室のみ撮影が可能だったので絵もご紹介します。

1883年、モネはセーヌ川流域のジヴェルニーに移り住み、終の住処となりました。ジヴェルニーで、「積みわら」シリーズを含む”連作”の手法を本格的に実践し始めました。同じ対象を異なる時間帯や光の条件で描き、一度に複数のカンヴァスを使って作業しました。積みわらは光と影のコントラストによって次第に抽象化されていきました。1891年に「積みわら、雪の効果」を含む15点の連作を展示した展覧会は大成功したのです。

1889年には、フランス中央高地でクルーズ渓谷を繰り返し描き、その後も「ポプラ並木」、「ルーアン大聖堂」、「セーヌ川の朝」などの連作を生み出しました。

1899年から1901年にはロンドンを訪れ、「チャリング・クロス橋」や「ウォータールー橋」の連作を描きました。これらの作品では、構図が単純化され、湿気を帯びた大気感や光の表現が特徴的です。

モネが連作を描くきっかけとなった一つに、好きだった浮世絵の影響もあったと言われています。オランダ滞在時に浮世絵に出会ったモネは、歌川広重の作品などを所蔵していて、連続する風景表現の新たな可能性を見たのかもしれません。

積みわらは今やモネの代表作の一つです。そのためか私もフランスやイギリスの田舎で積みわらを見かけるとモネが頭に浮かんでしまうほどです。
でもそのなんでもない積みわらに目をつけて、しかも積みわらのどアップを何度も描く。そして連作シリーズに仕上げ大成功する。モネの着眼点とその気力に驚かされます。

ロンドンの橋シリーズも、滞在しているホテルの一室の窓から毎日橋を眺め描いていたそうです。当時は大気汚染によるモヤがひどく、奥さんのアリスにモヤの状況を知らせる手紙を書いています。天気や大気の条件がモネの絵には本当に影響大だった。毎日製作しているからこその苦労や喜びを知ることができるエピソードなのです。

5 「 睡蓮」とジヴェルニーの庭

「睡蓮の池」1918年ごろ

ついにモネの連作の集大成とも言える睡蓮のセクションとなります。

モネはこの地に「花の庭」と「水の庭」を造り、水生植物や日本風の太鼓橋を配しました。ジヴェルニーは多くの国際的な画家やコレクターに訪れられ、モネの名声は世界的なものとなりました。庭の草花を描き続け、特に「睡蓮」シリーズに300点以上。友人の政治家ジョルジュ・クレマンソーの助けを借り、巨大な「睡蓮」の壁画を制作し、死後に国家に寄贈され、パリのオランジュリー美術館で展示されています。

私生活では、アリスと正式に再婚し、晩年は視力の衰えと闘いながらジヴェルニーの庭、特に「睡蓮」を中心に描き続けました。視力の衰えに伴い、より抽象的で大胆な筆致を特徴とするようになりました。

モネが亡くなった1926年、フランス美術はシュルレアリスムの台頭など大きな変化を迎えていて、印象主義は一時期過去のものとみなされました。でも1950年代に抽象絵画の源流として再評価されたのです。

こうやって順を追ってみていくと、モネが睡蓮にたどり着いたのが当然の流れだったように感じます。光と影の変化を捉えるために絵を描く。
若い時はあちこちを歩き回り絵の題材を探していたわけですが、探し回らなくてもいい素晴らしい場所を自分で作り上げたのです。ここで家族に囲まれてじっくりと作品に取り組める。重い絵の具道具を担ぐこともなく、家族に会えない寂しさに手紙を書く必要もない。

でもそう人生はうまく行かなくて、愛する家族を失って、そして大切な視力も徐々に失っていき描かれていく抽象的な睡蓮の絵。
それがのちの時代の抽象画への架け橋になっていくなんて。

美術作品は本当に人生や歴史とともに流れ移り変わっていくのですね。

展覧会の概要

モネ連作の情景
2023年10月20日〜2024年1月28日
上野の森美術館(東京)

2024年2月10日〜2024年5月6日
大阪中之島美術館(大阪)

展覧会公式サイト:https://www.monet2023.jp/

感想

私は上野の森美術館で、月曜日の朝一番で見に行ってきました。
9時開館のため10分くらい前に入場口に向かうと、すでに10人くらいの方が並んでいました。そしてしばらくすると順番に中に案内されていきました。

入り口の横に並んでいるコインロッカーがありますが、小さなタイプのロッカーです。小さ目のキャリーバックを持っている方が、別に荷物を預かってもらっていました。でも私は上野駅のロッカーに預けて向かいましたよ。上野駅にはロッカーがかなりたくさん設置してあるので、ここで預けて歩いていった方が楽かも。

こちらは上野の森美術館という名前ではありますが、展示会場のみの場所なので美術館の美しい建築とか、重厚感ある展示室で優雅に鑑賞、というものは期待できませんのでその点は前もって知っておかれるといいと思います。


さて、絵が活動時期に並べられ、どのように”連作”に繋がっていったのか体感できる素晴らしい展覧会でした。モネは自分にとって魅力的な場所を探し続けることを惜しまなかったんだなぁと実感。そして水のある風景は欠かせないことも。
水面の煌めきを子供の頃からずっと見てきたことが、光の反射を描くことになったのか、水面の煌めきを求めて水の近くに住み、場所を求めて旅行をしたのかどっちなのだろう・・・きっと両方なのかもしれません。

特に私はイギリスで製作していた橋シリーズの作品が気になっています。ロンドンの高級ホテル「SAVOY」の部屋に滞在し、来る日も来る日も橋を見つめ絵に描く。モネとロンドンについてもう少し掘り下げたくなりました。

この記事内でも少し書きましたが、彼には驚くようなエピソードがたくさんあるんです。そんなエピソードと共に絵を見ると、モネがもっと好きになると思います。今回音声ガイドを使わなかったので、もしかしたらそこでモネのエピソードなど語られていたのかしら・・・
使った方がいたらぜひ教えていただきたいです。

東京展が終わり、大阪にやってくる来年の2月からは、そんなモネのエピソードや、モネとロンドンの話などをお話ししながら展覧会を回るプランをご用意する予定です。

最後まで長い展覧会レポートを読んで下さってありがとうございました。

-クロード・モネ, 展覧会レポート, 美術館