365日絵のなかで”旅”をする 旅するアート鑑賞

ブリュージュの寄進者ーハンス・メムリンクの描くポルティナーリ夫妻の肖像【365日絵のなかで旅をする】

今回は、夫婦の肖像画から、550年前のブリュージュの裕福な銀行家、そして寄進者の世界を旅したいと思います。

▼前回の「キリストの受難」の絵の下には、寄進者の肖像が描かれていたことを少しご紹介しました。

描かれている人物、トンマーゾ・ディ・フォルコ・ポルティナーリ(1428-1501)は、フィレンツェの名だたる家系出身。彼はブルージュのメディチ銀行の支店長になるためにブルージュへ移住しました。
一緒に描かれているのは1470年ごろトンマーゾガ42歳のころ結婚したマリア・マッダレーナ・バロンチェッリ(本名マリア・ディ・フランチェスコ・バンディーニ・バロンチェッリ)。年の差約28歳。フレンツェの名家出身のマリアは14歳でした。

彼らはブルージュでも豪華な建物ブラデリンホフで生活。この場所は、1435年にピーター・ブラデリンによって建設された中世の都市宮殿。ブルージュの中心部に位置していて、その後メディチ家の所有となり銀行業務が行われていました。建物には初期ルネッサンスの彫刻を含むイタリアの影響を受けた外観が残っています。1600年代後半には、カルメル会修道女の修道院として使用されています。

▼トンマーゾのビジネスオフィスでもあり、家でもあったこのブラデリンホフがどのような建物だったのかはこちらのサイトから見ることができます


ポルティナーリはは当時ブルージュで非常に流行していた改革派オブザーバント派フランシスコ会の強力な支持者であり、パトロン。宮廷とのつながりも深い人物。ブリュージュのエリート社会、宮廷の人々、外国商人、貴族、著名なの芸術家などから成り立つ信心会の会員でもありました。

改革派オブザーバント派フランシスコ会とは、フランシスコ会内で起こった宗教改革運動。14世紀末から15世紀にかけて始まり、より厳格な貧困の実践とフランシスコ会の創設者である聖フランチェスコの原初の教えへの回帰を目指しました。当時のフランシスコ会が富を蓄え、世俗化していく中で、元の精神的な理念に立ち返ろうとする修道士たちによって推進されました。

そしてブリュージュは当時、商業の中心地としてだけでなく、芸術と文化の中心地としても栄えており、芸術家たちにとって豊かな創作活動の場となりました。

このような中、芸術家たちは、宗教的主題を扱いながらも、人間の感情や神聖な存在への個人的な関わりを表現することで、宗教改革の精神を反映していたのかもしれません。テーマは単なる教義の伝達手段ではなくて、観る者の心に訴えかける感情的な体験を伝える手段。

当時ブリュージュで最も人気のあったハンスメムリンクに作品を依頼した。

前回の絵「キリストの受難」は大きさからは祭壇画ではなさそうですが、ポルティナーリが与えられていた聖ヤコブ教会の礼拝堂用に描かれていたのかもしれないとも考えられているようです。

Tommaso di Folco Portinari and Maria Portinari, image courtesy of The Metropolitan Museum of Art

さて、もう少しトンマーゾの人生を見てみましょう。

約1440年、たった12歳の頃にブルージュのメディチ銀行で働き始めました。フィレンツェのメディチ銀行トップのコジモ・デ・メディチの反対などもあり昇進はとってもゆっくりでした。支店長になったのは25年後。37歳ごろになっていたわけですね。
これが遅いのか早いのか、現在と比較してもよくわかりませんが、当時の寿命や若くから働いていることを考えるとかなり遅かったということなのでしょうか。

同じ頃、トンマーゾはブルゴーニュ公国のフィリップ公、その後を継いだ息子のシャルル公からも信頼を得て、宮廷でますます特権的な地位を持ち、外交事務に参加していきます。

ブルージュのメディチ銀行の在職中、シャルル大胆公に大規模で極めてリスキーな無担保融資を行い、結果それが完全に返済されることはなく、最終的には銀行の崩壊につながりました。ブルージュ支店は1480年に閉鎖され、1497年にトンマーゾと彼の妻はフィレンツェに戻り、彼は1501年に亡くなりました。

▼こちらの絵じっくりと近づいてみると本当に素晴らしいので、美術館のサイトでズームアップしてぜひ見てください!

Hans Memling | Tommaso di Folco Portinari (1428–1501); Maria Portinari (Maria Maddalena Baroncelli, born 1456) | The Metropolitan Museum of Art
Hans Memling | Tommaso di Folco Portinari (1428–1501); Maria Portinari (Maria Maddalena Baroncelli, born 1456) | The Metropolitan Museum of Art

<b>The Artist:</b> For a biography of Hans Memling, see the Catalogue Entry for <i>The Annunciation< ...

www.metmuseum.org


タイトル:トマソ・ポルティナーリとマリア・バロンチェッリ(Tommaso di Folco Portinari Maria Portinari )
画家:ハンス・メムリンク(Hans Memling (1430ごろ-1494年)
制作年:1470年ごろ
所蔵美術館:メトロポリタン美術館、ニューヨーク


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