「ヴァージナルの前に座る女」
ヨハネス・フェルメール
1671ー1674年ごろ
ロンドン・ナショナルギャラリー所蔵
フェルメールの作品はとにかく美しい。
色のハーモニー
溢れる光
描き分けた質感
構図など
リアルな世界のようでいて、ちょっと現実的ではないのですよね。
それは美しすぎるからなのかな。
そして引き付けられるのは、美しいだけじゃなく絵に秘められた意味があることも。
この作品には愛というテーマが潜んでいるそうです。
フェルメールの作品を見ていて気づくのが壁にかかっている絵画のこと。
結構存在感たっぷりに壁を占拠しています。
フェルメールの活躍していた17世紀のオランダは、スペインから独立し、東インド会社のアジア進出で貿易によって繁栄した時代。
それは黄金時代とも言われるほどのバブル期でした。
その後徐々に没落していくオランダで、フェルメールも晩年は生活も苦しくなり、死後は名前も忘れられていきます。
(19世紀半ばに再評価されて、今では大人気の画家。人の美意識は変化していくのだなーと思いますね)
その黄金時代、フェルメールのいたデルフトでは人口の2/3の人々が平均11枚の絵を持っていたそうですよ。
すごい数ですよね。
絵画が取引される市場も成立されて、多くの画家が存在して絵がどんどん描かれ、売られていく。
だからフェルメールや同時代の画家の作品の多くに、画中画(絵の中の絵ですねー)が当然のようにあるのですね。
絵画がどんどん売れるもんだから、当然人気のある画題も存在するわけで、同じ様な作品がたくさんあることも。
と前置きが長くなってしまいました。
フェルメールの作品の壁にかけられている絵は、フェルメールよりも少し前に活躍していたディルク・ファン・バビューレンの「とりもち女」。
こちらの作品です。
「取りもち女」
ディルク・ファン・バビューレン
1622年
ボストン美術館
フェルメールの義理の母が所有していたバビューレンの絵画は、この作品と「合奏」という作品にも描かれてます。
(「合奏」は1990年にイザベラ・スチュアート・ガードナー美術館での盗難後いまだに行方不明なんだとか・・・)
この「取りもち女」というのは愛の売買がテーマです。
金貨を渡す真ん中の男は客
リュートを持つ若い女は娼婦
被り物をした老婆は斡旋者
壁にかかった「取りもち女」が意味するのは、この部屋は売春宿なのか?
若くて清らかな女性の愛と、享楽の愛を比較しているのか?
17世紀は、音楽のシーンも今の時代とは違って、軽薄な愛との捉らえられ方も。
ここではヴィオラの楽器の形が女性の体とも関連づけられてもいるそうです。
他のフェルメール作品の多くでは、左側に窓があってそこから明るい光が入ってきています。
ですが、この作品の窓の外は暗くて、上の方には青いカーテンがかかっている。
光は手前から当たっていて、女性やヴィオラの曲線に光を与えています。
だからこちらを向いている女性は、誰かを待っているのかもしれない?