「カナレットとヴェネツィアの輝き」展覧会レポート

2024年に静岡県立美術館からスタートした「カナレットとヴェネツィアの輝き」展。現在も日本各地を巡回中です!

私は展覧会が始まってすぐに静岡へ、そして先日京都展にも行ってきました。しかし…まだレポートを書いていないことに気がつきました!(上の画像は京都展で撮影したものです)

この展覧会では、どんな作品が楽しめるのか?
そして、事前に知っておくともっと楽しめるポイントは?

そんな視点で、レポートを書いていきたいと思います!

「カナレットとヴェネツィアの輝き」展について

静岡県立美術館のフライヤーです

この展覧会は、18世紀のヴェネツィアで生まれて育ったカナレット(ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)が、愛する地元の美しい風景を描きながら、ヴェドゥータ(景観画)というジャンルを確立し、その後の時代にも残るヴェネツィアのイメージを作り上げたことに焦点を当てています。

カナレットの絵は、ヴェネツィアの光や水の反射、建築の細部を驚くほどリアルに捉えながらも、観る者を魅了する情緒を兼ね備えています。それは、彼がただただ正確に描いたのではなく、「見たい風景」になるように計算高く、そして自然に脚色も加えているから。その風景は、のちの芸術家たちや観光客のイメージにも大きな影響を与えたのです。

ヴェネツィアの風景がどのように描かれてきたのか?そしてカナレットの代表的なヴェドゥータ作品を通じて、18世紀のヴェネツィアの都市風景がどのように描かれ、どのように受け継がれていったのかを探っていくような構成になっています。

今回の展覧会はカナレットを大々的に紹介する日本で初めての展覧会!!

私は以前から彼の絵が大好きだったのですが、日本では展覧会も開かれるないし、それほど知名度がないのでとっても残念だったんです。なので今回の機会は本当に楽しみで嬉しい。

出品作品は、スコットランド国立美術館など英国コレクションを中心に、油彩、素描、版画など約60点で構成されています。この英国コレクションを中心に!というところがポイント。アメリカや本国イタリアなどにもカナレットの絵はありますが、実はイギリスに大量にあるんです。それは彼のお得意様がイギリス貴族だったため。カナレット自身も10年ほどイギリスに滞在もしています。その時に描いた作品も登場しています。

さらに、やはりヴェネツィアは画家なら描きたい街なんでしょうね。多くの画家がその美しさを残していますので、今回の展覧会にも登場しています。カナレットの絵を比較しながら、また描き方や描く視点がどう移り変わっていったのかも感じられて面白いです。

巡回スケジュール

この展覧会は、2024年7月に静岡からスタートして2025年6月の山口県まで4館の美術館を巡回します。現在は京都で開催中。

「カナレットとヴェネツィアの輝き」
開催日:2024年7月27日〜9月29日(終了)
開催場所:静岡県立美術館

開催日:2024年10月12日〜12月28日(終了)
開催場所:SOMPO美術館

開催日:2025年2月15日〜4月13日
開催場所:京都文化博物館

開催日:2025年4月24日〜6月22日
開催場所:山口県立美術館

カナレット相関図

この相関図では、カナレットの家族関係、彼の作品を広めた人たち、そしてこの展覧会に登場する画家の一部をまとめています。つながりを知ることで、作品が生まれた背景や影響関係がより深く楽しめます!

展覧会の見どころ

この展覧会では、「水の都」ヴェネツィアが、画家たちの筆によってどのように描かれてきたのか? をひも解かれています!

カナレットが確立したヴェドゥータ(景観画)というジャンルを軸に、ヴェネツィアの街並みがどのように切り取られ、時代とともにどんな変化を遂げてきたのか。美しく精密な風景画の数々を、5つのテーマに分けてたどることで、新たなヴェネツィアの魅力が見えてきますよ。

展示の構成

1・カナレット以前のヴェネツィア

ここでは、18世紀のカナレットが活躍する前のヴェネツィアがどんな場所だったかがわかります。18世紀のヴェネツィアには、カーニバルや劇場、カフェが賑わっていた一方で、政治的には衰退の一途をたどっていたという、ちょっとした歴史ドラマがあります。

特に、最初に登場するヴェネツィアの壮麗な鳥瞰図は、まさにその時代の繁栄と威勢を象徴しています。それに、このセクションでは、カナレット以前の画家たちがどのようにヴェネツィアを描いていたかも知ることができるので、これを見てからカナレットの作品に進むと、彼がどれだけ画期的だったかが一層感じられると思います。

ちょっとピントがボケてしまっていますが・・・「ヴェネツィア鳥瞰図」ヤーコポ・デ・バルバリ 1500年 木版画

鳥瞰図は隅々までじっくり見てみて!まるで航空写真のよう。当時はこんな視点で見ることなどできなかったのにすごいです。

「ヴェネツィア鳥瞰図」の真ん中部分 ネプチューン像の後ろにヴェネツィアの海の玄関口、ドュカーレ宮殿やサンマルコ広場が見えます

ティエポロの絵は下絵。彼はこのような絵をヴェネツィア貴族の邸宅の壁画として描いて大人気でした。

「アントニウスとクレオパトラの出会い」ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ 1747年ごろ
ヴェネツィアンガラスの展示も!

2・カナレットのヴェドゥータ

ここでは、カナレットが描いたヴェネツィアの風景画『ヴェドゥータ』をたっぷり見られます。彼の作品はまるでその場にいるかのような臨場感が魅力です。

空と輝く水面、そして精密に描かれた街並みが本当に見事で、今でも私たちがイメージするヴェネツィアの象徴的な風景を作り上げたとも言えます。当時のヴェネツィアをそのまま切り取ったように感じるのだけど、実はカナレットは光の効果や建物の配置を意図的に工夫して、よりドラマチックな景観を作り出しているのです。

想像力を駆使して実際にはその場所からは見えるわけではないけれど、こう見えてほしい!という現実と理想がうまく融合していて、だから見ていて飽きないのです。

ヴェネツィアの歴史や風景が好きなら、このセクションは絶対に見逃せません。カナレットの目を通して見るヴェネツィアは、まるで映画のワンシーンのように美しくて心に残ります。

「カナル・グランデのレガッタ」カナレット 1730-1739年ごろ

そして、10年ほど滞在していたイギリスの風景も登場。こちらはテムズ川沿いの風景。川をのぞきこむ人の自然な姿が可愛らしい。ここでも水面とそばに立つ建物の美しさが際立ってます。

部分「ロンドン、テムズ川、サマセット・ハウスのテラスからロンドンのザ・シティを遠望する」カナレット 1750年ごろ

3・カナレットの版画と素描

「カナレットとヴィゼンティーニの肖像」ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアツェッタ 1735年

第3セクションでは、カナレットがどのように作品を作り上げていったのか、そのプロセスを垣間見ることができます。驚くのは下絵の完成度の高さです。美しくてこの下絵でも十分に飾っていたいと思えるほど。

特に面白いのは、カナレットが最初に描いた素描と完成した版画を比較できるところ。細かい変更点や、構図がどのように進化していったのかがわかるから、アート好きにはたまらないと思います。それに、彼が自分で手がけた版画は、当時写真がなかった時代において複製としての価値が非常に高く、アート作品としても重要な意味を持っていました。

ペンで描いて上から色を薄くつけている「サン・マルコ広場でのコメディア・デラルテの上演」カナレット 1755-1757?年

彼の画風に影響を与えたと言われるカメラ・オブスキュラという光学機器の展示もありました。こちらの窓から映った映像が、中の鏡に移り、箱の後ろにある磨りガラスを通して見ることができる機械です。

カナレットは、この機械を使い、そして自分の持ち前の技でヴェネツィアの風景を描いたんですね。イギリス貴族たちが感動した風景を、そしてイギリスへ持ち帰りたいと思う風景を。

それは画家独自の視点とか情感が入り込みすぎているものではダメだったのではないかと思うのです。私たちが綺麗!って思って写真を撮るようなそんな風景が必要だったんでしょうね

「カメラ・オブスキュラ」1800年ごろ

4・同時代の画家たち、後継者たち

「ルッカ、サン・マルティーノ広場」ベルナルド・ベロット 1742-1746年

ここでは、彼の同時代や後継者たちの作品がたくさん見られます。

たとえば、ベルナルド・ベロットやフランチェスコ・グアルディといった画家たちは、カナレットと同じ時代にヴェネツィアや他の都市を描いたんだけど、それぞれが独自のアプローチで作品を作り上げていて、カナレットとはまた違った魅力があります。特に、甥のベロットはヴェネツィアを離れてヨーロッパ各地で活躍していて、その影響力はものすごく大きかったのです。

さらに面白いのは、カナレットがロンドンに滞在していた間に、彼の作品がイギリスでも人気を博して、ウィリアム・ジェイムズやウィリアム・マーローといった英国の画家たちがカナレットの技法を学んでいたこと。ここではヴェネツィアだけじゃなく、イギリスの風景画の流れも一緒に見ることができるのです。

カナレットの影響がどれだけ広がっていたのか、そして彼の後を継いだ画家たちがどうやってこのジャンルを発展させたのかを知ることができます。

5・カナレットの遺産

「カナル・グランデ・ヴェネツィア」ウジェーヌ・ブーダン 1895年

最後のセクションでは、19世紀に入ってから、カナレットの描いたヴェネツィアがどう発展していったのかがテーマになっています。

19世紀のロマン主義や印象派の画家たちが、カナレットの遺産をどう自分たちのスタイルに取り入れて、新しいヴェネツィアの姿を描いたかがわかる作品がたくさんあります。

モネのような画家は、カナレットが作り上げた伝統的なヴェドゥータから離れて、もっと自由な視点でヴェネツィアを捉え始める。特に、光や大気の変化を重視した描写がすごくて、見ているとその場の雰囲気が感じられるような作品に仕上がっています。

カナレットの絵を楽しむための4つのポイント!

「カナル・グランデのレガッタ」カナレット 1730-1739年ごろ

ではここからは、《大運河のレガッタ》を使って、カナレットの絵を楽しむ4つのポイントをお伝えします!

この絵は、18世紀ヴェネツィアの華やかなボートレース「レガッタ」の熱気あふれる瞬間を切り取ったもの。よく見ると、この一枚には当時の社会、貴族の権力、ヴェネツィアの人々の暮らしがぎっしりと詰まっているのです。

① ヴェネツィアの華やかな祝祭を感じる!

カナレットは、ヴェネツィアの輝かしい祝祭の瞬間を鮮やかに描き出しました。テーマとなっているのは、ヴェネツィアの伝統的なボートレース「レガッタ」。18世紀には2月に開催されていましたが、現在は9月の第一日曜日に行われ、今でもヴェネツィアの人々にとって特別な行事です。

この場所はレースのゴール地点。

注目したいのは、豪華な船 「ピッソーナ」。金色の装飾や豪華な彫刻が施されたこの船は、ヴェネツィアの貴族がその権力と財力を誇示するための特別なもの。漕ぎ手たちの衣装にも注目です!彼らが身につけている白と青の色は、ヴェネツィアの名門「ピサーニ家」の象徴。レースに参加する家ごとに異なる伝統色があり、この色分けがヴェネツィアの華やかさをより一層引き立てています。

② 小さな人物まで物語がある!カナレットの遊び心を探そう

カナレットの絵には、ただの風景画ではない楽しさがあります。この絵では観客たちの様子に注目すると、カナレットの遊び心が見えてきます。

・岸辺やバルコニーだけでなく、屋根の上にまで観客が!
・熱狂して身を乗り出したり、手を振ったり…。カーニバルの仮装の黒いマントと白い仮面をつけている人もたくさん。
・よく見ると、細かい表情や仕草まで丁寧に描かれていて、彼ら一人一人に物語があるように感じられます。

③ 脚色された「理想のヴェネツィア」を楽しむ

まるで写真のように精密に描かれていますが、実は「リアル」ではありません。彼は、現実には存在しない風景をつくりあげることも得意でした。

例えば…
・右岸の景観を広く描き、奥行きを短くすることで、レースの迫力と動きをより強調している。
・レースの盛り上がりを際立たせるために、観客の存在感を強調しているように見える。
・水面や光の表現を工夫し、ヴェネツィアの美しさを際立たせている。

これは、当時のイギリス人観光客に向けて「ヴェネツィアの理想の姿」を描くための工夫。

④ カナレットの成功を支えた人物、ジョゼフ・スミスの存在

この絵をもっと楽しむために、「ジョゼフ・スミス」の存在もぜひ知っておきたいポイント。画面左手に描かれている建物、実はカナレットのエージェントであるスミスの家なんです!

彼は、ヴェネツィアに滞在していたイギリスの商人であり、カナレットの絵をイギリス貴族やコレクターに紹介し、販売する役割を果たしました。当時、ヴェネツィアは「グランドツアー」と呼ばれるヨーロッパ貴族の教育旅行の最終目的地。訪れた記念として、カナレットの絵を購入して帰ったのです。

この背景を知ると、カナレットの作品がなぜイギリスで人気だったのか、さらに興味が湧いてきませんか?

同じ展覧会でも全然違う!静岡と京都で見比べてみた

この展覧会をとっても楽しみにしていた私は、2024年夏に静岡県立美術館での開催直後すぐに鑑賞し、2025年2月には京都文化博物館へ。

これまでも同じ展覧会を違う会場で見ることが何度かあるのですが、会場が変わると展示の雰囲気が驚くほど違うんですよね。今回は、静岡展と京都展を見比べて感じた違いをまとめてみたいと思います!

静岡県立美術館

静岡展は、関連展示がとても充実していました。カナレットと同じ18世紀のヴェネツィアのジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージのローマの景観図がたくさん楽しめたのです。ピラネージは版画家、建築家、考古学者。静岡県立美術館の古代ローマの景観を描いたエッチングなど50点。カナレットの版画と比べたり、同じイタリアでもローマは遺跡の街なので風景も違う。その比較は展覧会鑑賞を充実させてくれました。

また、展示スペースが広く、天井も高いため、開放感があり、ゆったりと作品を楽しむことができました。何度も行き来しながら鑑賞できるのもポイントでしたね。写真撮影ができる作品が多かったのも嬉しいポイントでした!

京都文化博物館

京都展では、巡回展ならではの作品の入れ替えがあり、「静岡では見られなかった作品を鑑賞できる」という楽しみがありました。一方で、静岡で見られた作品の中には京都展では展示されていないものもあり、会場で違った魅力が楽しめるのが巡回展の面白いところですね。

展示スペースは2階構成になっていて、私は最後戻って見返したくなるタイプなので、進行が一方通行になる構造は少し気になりました。まぁこれは仕方ないか・・・

京都展は街中にありアクセスが良いので、気軽に立ち寄れるのも魅力のひとつ。美術館の周辺にはカフェや観光スポットも多く、展覧会の後に街歩きを楽しむのもおすすめです!

こんな方におすすめ!「カナレットとヴェネツィアの輝き」

この展覧会、どんな方におすすめしたいかなぁと考えてみました。実際に鑑賞してみて、こんな方ならきっと楽しめる! と思ったのでご紹介しますね。

🛶 イタリアやヴェネツィアが好きな方、いつか行ってみたい方
 ヴェネツィアの運河や街並みが、カナレットの筆によって本当に美しく描き出されています。まるで、18世紀のヴェネツィアを旅しているような気分を味わえますよ!

🏛️ 都市景観や建築が好きな方
 建物の細部や遠近法の巧みな表現、光と影の演出など、都市景観画としての魅力がたっぷり詰まっています。当時のヴェネツィアはこんな街だったのか!という発見があります。

🎨 精密な絵をじっくり観察するのが好きな方
 カナレットの絵は、人物の小さな仕草や建築の細部まで、驚くほど精密に描かれています。ルーペで細部をじっくり眺めるような楽しみ方もいいかも。細かい描写に惹かれる方におすすめです!

今回は、「カナレットとヴェネツィアの輝き」展のレポートをお届けしました。ヴェネツィアの光と水が織りなす美しい世界、ぜひ体験してみてくださいね!✨

ヴェネツィアという街は、画家たちによって何度も描かれてそのたびに新たな表情を見せてきました。この展覧会を訪れれば、きっとヴェネツィアの歴史やアートの奥深さを感じられるはずです。

そして、せっかくなら 「作品の背景や、カナレットについてもっと知りたい」 と思いませんか?

私は、この展覧会のガイドも行っています。作品の見どころや、ちょっとしたトリビアを交えながら、一緒にカナレットの世界を巡ってみませんか?

📍 ガイド詳細はこちら。ぜひ、お気軽にご参加ください!

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