レンブラントの絵を巡るアートドキュメンタリー映画「レンブラントは誰の手に」

「レンブラントは誰の手に」はレンブラントの絵を巡って繰り広げられる人間ドラマを取り上げたドキュメンタリー映画。
2021年公開作品。
原題は、「My Rembrandt」。

レンブラントの新たな作品の発見になるの?
売り出された2枚の肖像画はどの美術館に行くの?


という実際にあった出来事の裏側をちょっとスリリングに見せてくれます。

登場するのは、貴族、画商、美術研究者、アートコレクター、修復家や美術関係者たち。
他にもレンブラントの絵にまつわるエピソードが間にいくつも登場して、うまく交差しあって進んでいきます。

約350年も前に生きていた画家の絵が、今もこんなに多くの人を熱狂させるんだ・・・と驚きます。
そしてタイトルにもなっているように、「絵は誰のものなのか?」を考えさせられます。


映画に登場する主な人物

バクルー公爵  (The Duke of Buccleuch)

美術研究者&画商  ヤン・シックス(Jan Six)

シックス・コレクション理事長 ヤン・シックス・ファン・ヒュレホム(Jan Six Van Hillegom)

アートコレクター&実業家 トーマス・S・カプラン(Thomas S. Kaplan)

レンブラント専門家 エルンスト・ファン・デ・ウエテリンク教授(Professor Ernst Van De Wetering)

エリック・ド・ロスチャイルド男爵(Baron Eric De Rothschild)

アムステルダム国立美術館 絵画部長 ターコ・ディビッツ(Taco Dibbits)


「レンブラントは誰の手に」のあらすじ

アムステルダムの街を、絵を片手に持って自転車で颯爽と走る人物がこの映画の中心人物。
彼は、レンブラントが描いた肖像画のある家で育った、貴族の家系の画商ヤン・シックス。
「名画を見出したい」というヤンが目をつけたのが一枚の肖像画。
これはレンブラントの絵じゃないの??と感じて、クリスティーズのオークションで安値で落札。
もしこれが本物のレンブラント作品となると、44年ぶりの新しい発見になるのだそう。
本物なのか?偽物なのか?専門家、美術館も巻き込んで進んでいく状況は、少しハラハラします。

そして、フランスではロスチャイルド男爵が、弟が税金を払うために現金が必要となり、長年一族が所有してきたレンブラントの2枚の肖像画を売りに出すことに決める。
大きな2枚の夫婦の肖像画。
滅多に市場には出回らない見事な絵画なんだそう。
男爵が提示した売却金額は、1 億6000万ユーロ(約200億円)!!
この話にルーブル美術館とアムステルダム国立美術館が動き出す。
ここに芸術の価値などがわからない政府の要人が出てきたりして話がややこしくなってくるんです。

2つの大きなレンブラントの絵を巡る物語だけでなく、別のエピソードも登場します。

その一つが、バックルー公爵所有のスコットランドにあるドラムランリグ城のレンブラントの肖像画。
過去に強盗が入ったことがきっかけで、ずいぶんと高い位置に架けられている読書する女性の肖像画。
でも「高いから彼女に親しみを感じられない」という公爵。
アムステルダム国立美術館の絵画部長にお願いし、より良い場所に移動することにするんです。

さらにもう一つのエピソードは、ニューヨークの億万長者のカプラン氏が、ルーブル美術館で自身のアートコレクションを披露しているところ。
毎週1枚、5年間にわたって購入した絵画は約200枚。
個人所有者から購入し、それを「所有権を公に戻した」と語っています。

アートコレクター、修復家、専門家、美術館艦長などが登場し、自分の見解を語っていきます。
全て実際にあった出来事。
その裏側の生々しいところまで見せてくれます。

映画を見る前に知っていたい3人の人物をご紹介


登場人物の背景を少し知っておくと、より楽しめます。
ここでは重要な3人の人物について紹介します。

ヤン・シックス

RembrandtPortrait of Jan Six, Public domain, via Wikimedia Commons

レンブラントの絵が好きな方なら聞いたことあるのではないでしょうか?
この肖像画の人物が、ヤン・シックス。
レンブラントが1654年に描いた絵です。

アムステルダムの有力者で市長にもなった人物で、ヤン・シックス一世です。
映画に登場する2人のヤン・シックスは彼の子孫。
代々受け継がれてきた美術コレクションを管理するシックス・コレクション理事長 ヤン・シックス10世。
そして彼の息子の美術研究家で画商のヤン・シックス11世。

映画にも登場しますが、レンブラントの絵を始め230枚の肖像画に囲まれて生活しています。

バクルー公爵


1600年代から代々続くスコットランド貴族の一族バクルー家。
映画に登場するのは、現在の当主の第10代バクルー公爵です。

映画の冒頭、暗闇から少しづつ明かりがついてお屋敷が現れます。
それが、公爵家がたくさん所有する邸宅の一つのスコットランド郊外にあるカントリーハウス、ドラムランリグ城です。

邸宅で長年大切にされてきたのが、レンブラントの描く読書をする女性の肖像画
映画の中で公爵はこの絵をもっと身近に感じたいと掛ける場所を探しています。
今は暖炉の上の高い位置に掛けられているからなんです。

高い場所に掛けられているのは大きな理由があります。


2003年に一般公開の訪問者に混ざった強盗に大切な絵画が盗まれました。
盗まれたのはレオナルド・ダ・ヴィンチの作品。
絵は2007年に無事に戻り現在はスコットランド国立美術館に貸し出されています。
絵が戻ったことを確認することなく、第9代公爵は亡くなっています。

当時レンブラントの肖像画は、レオナルドの絵と隣同士で掛けられていて、盗難にあった第9代公爵は、高い場所に架け替えたというのが理由なのです。

ロスチャイルド男爵

RembrandtPendant portraits of Maerten Soolmans and Oopjen Coppit, Public Domain, via Wikimedia Commons

ロスチャイルド家は、銀行家で約200年にわたりヨーロッパの経済史、間接的には政治史に大きな影響を及ぼしてきた家系。
フランクフルトでマイヤー・アムシェル・ロートシルト(1744年生まれ)と5人の息子によって設立されました。

銀行だけでなくて色々な事業を展開しています。

ロスチャイルド家の保有する不動産の一覧を見ると、そのすごい数にびっくり。
その中の一つ映画の中に登場するパリの邸宅にも所狭しと美術品が並んでいます。

男爵が手放すことを決め、フランスとオランダの美術館が火花を散らすことになったこちらの2枚の肖像画は、男爵のベットルームに掛けられていました。

マルテン・スールマンスとオッペン・コピットのペンダント肖像画は、レンブラントによる2枚の全身像の結婚式の肖像画である。
1634年に2人が結婚した際に描かれたものであるそうで、そうなるとやはり2枚セットであることが大切なんだろうなと想像がつきますよね。

映画の見どころ

映画の見どころはたくさんあるのですが、やはり私が強く印象に残ったのは、レンブラントの絵に魅せられた人たちが語る言葉。
絵とは自分の感じたことをじっくりと温めて楽しんでいいんだなって思うのです。
ぜひそんな数々の言葉を、どんな表情で語っているのか見てください。

私は、その中でも絵の魅力を少し興奮気味に語るバクルー公爵の言葉が好きです。

彼女が顔を上げるのを待っている瞬間があります。
実に感情的なのですがふと気づくと感じているような・・・
まったくの無意識にそんな瞬間があります。
(レンブラントは)どうやって描いたのでしょう?

霧に包まれた美術館のような邸宅の中に静かに掛けられている巨匠の作品。
この場所でしか見ることができないレンブラントの絵と、公爵の言葉を聞くだけでもこの映画を見る価値あるなと感じます。

▼「レンブラントは誰の手に」はこちらで見ることができます


レンブラントは誰の手に(字幕版)


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