「読書するマグダラのマリア」宗教と美術の交差点

「読書するマグダラのマリア」
ロヒール・ファン・デル・ウェイデン
(現在のベルギー生まれ、北方ルネサンスの画家)
1435年ごろ

マグダラのマリアはとても有名なので、見たこと、聞かれたことある方多いのではないでしょうか?
マリアという名前ですが、イエス・キリストの母である聖母マリアとはまた別人です。
ロヒール・ファン・デル・ウェイデンによる1435年頃の作品『読書するマグダラのマリア』は、北方ルネサンスの画家による繊細かつ深遠な作品であり、聖書の人物をどのように芸術的に表現するかについての興味深い一例です。

この絵のマグダラのマリアは、部屋の中でクッションの上に座り祈祷書を読んでいる姿で表されています。彼女の横には白い壺が置かれています。この香油壺が彼女のアトリビュートです。
(アトリビュートというのは、人物が誰であるのか分かるように、その人物に関連した物を絵画や彫刻作品に人物のそばに添えられた物です)

マグダラのマリアは実は一人の女性ではなく、数人の女性のエピソードが合わさって同一視されるようになりました。

福音書の中にでてくるマグダラのマリアは、キリストに七つの悪霊を追い払ってもらい、それ以後キリストに従うようになった女性。キリストの受難の場に立ち会って、キリストの復活を使徒たちに伝える最初の人間という女性です。

そこに、下記の2人の女性が合わさります。

・キリストの足に香油を塗って自分の罪を悔い改めたとルカの福音書にかかれている無名の女性。彼女は泣きながらそしてキリストの足に落ちた涙を自分の髪で拭いました。

・キリストの足に香油を塗った、ヨハネの福音書にでてくるマルタとラザロの姉妹のマリア。キリストの死後、マルタとラザロ、そして他のキリスト使徒と共に異教徒に捕らえられ船で流されマルセイユに漂着。そこで人々に洗礼を受けさせるなど布教活動をします。その後荒野に入り30年間の苦行ののち天使に導かれ天に昇ったとされています。

そのためさまざまな宗教がに登場します。例えば下記のようなタイトル

「十字架の道行き」「キリストの磔刑」「十字架降下」「哀悼」「埋葬」「ノリ・メ・タンゲレ(我に触るな)」


今日ご紹介した絵は上記の説明とは少し違い、本を読む穏やかな表情のマグダラのマリア。壺というアトリビュートで彼女だと分かるわけです。さらに表情からは、彼女の内面の平和と悔い改めを象徴しており、ロヒール・ファン・デル・ウェイデンの繊細な筆致によって見事に表現されています。このように普通の家屋の中に聖人を配してキリスト教の世界を描くのは、ウェイデンの出身、北方ルネサンスの大きな特徴です。

この絵はもともとは大きな祭壇画だったようですが、分断されてしまったそうです。1956年に絵画の修復の際に、マグダラのマリアと他に2人の人物が描かれているのがわかりました。
すぐ後ろにいるのが、聖母マリアのご主人である聖ヨセフ。
その横には福音書記者の聖ヨハネ。

祭壇されることがなければ、マグダラのマリアとの認識が容易だったのかもしれませんね。

娼婦だったとも言われていたマグダラのマリアは、懺悔と瞑想の生活を送りました。過去を捨てて今の自分を見つめ、改心していくマグタラのマリアの姿を私たちに見せていくのも彼女の役割なのかもしれません。

-絵画の背後にある物語