ブリューゲル展【豊田市美術館】

「ブリューゲル展 画家一族150年の系譜」を愛知県豊田市にある豊田市美術館に見に行きました。この展覧会は東京都美術館を皮切りに全国5ヶ所の美術館を巡回するものです。

「バベルの塔」で有名なブリューゲルというと1人の画家をイメージするかもしれませんが、偉大な父であるピーテル・ブリューゲル1世のあと、2人の息子やその子孫たちが代々引き継ぎ、150年に渡ってブリューゲル一族は画家を生み出してきました。

この展覧会は一族9人の作品と同時代に活躍した画家の作品を通して、16世紀から17世紀のフランドル(現在のベルギーです)絵画の魅力を伝えてくれます。

ブリューゲル(父)、ブリューゲル(子)と表記されていたり、同じタイトルの作品があり、誰の作品?、誰のこと?などとこれまで疑問を持っていた方も、この展覧会できっと頭が整理されてスッキリされることと思います。

ブリューゲル一族とは

展覧会のサブタイトルは”画家一族150年の系譜”。ピーテル・ブリューゲル1世から息子のピーテル2世、ヤン1世へと受け継がれた才能は、150年に渡って孫やひ孫にまで続いていきました。

この展覧会では一族9人の作品が展示されています。

偉大なる父

ピーテル・ブリューゲル1世(1525/30-69)
生まれた年や場所は不明ですが、1525年から30年の間に生まれたと推測されています。1545年にピーテル・クック・ヴァン・アールストに弟子入りし、画家としての活動をはじめました。
2年間のイタリア旅行後の1554年頃、アントウェルペンに戻り版画の下絵制作を始めます。版画出版業者のヒエロニムス・コックの依頼により、風景版画やヒエロニムス・ボス(1450ごろ-1516)風の幻想的な絵を制作し人気となります。1563年に師匠の娘と結婚しブリュッセルへ。そこでの6年間は、農民たちの労働、祝祭、遊びなどをテーマとする作品を描きました。

2人の息子

ピーテル1世は40代という若さで亡くなってしまいます。その時2人の息子ピーテル2世は5歳前後、ヤンは1歳前後。2人は母方の祖母のマイケンから絵を習ったと言われています。父の絵の再現と鑑識眼を受け継ぎ発展させた2人の息子によって父親の名前は世に残り、壮大なブリューゲル家の歴史が続きました。

長男 ピーテル・ブリューゲル2世(1564/65-1637/38)
父の死後も美術コレクターや愛好家の間でブリューゲルの作品はとても人気があったので、弟子たちとともに父のコピーやブリューゲル風の構図の作品を量産しました。
森洋子さんの「ブリューゲルの世界」によると

正確にはわかりませんが工房作の総数は1000点以上といわれ、そのうち7割は父のコピーでした。

次男 ヤン・ブリューゲル1世
花を題材にした作品の人気が高く”花のブリューゲル”と呼ばれています。ルーベンスと友人関係にあったヤンは共同で作品を制作したり、ルーベンスは「ヤン・ブリューゲル一家」という家族の肖像を描いています。オーストリア大公アルブレヒト夫妻にも気に入られ、宮廷画家のような待遇を受けていたそうです。

孫の代へ

ヤン・ブリューゲル2世(1601-78)
ヤン1世と先妻イザベラとの息子
イタリア修業から戻りアントウェルペンで父の工房を受け継ぎ、寓意画や神話画を得意としていました。

アンブロシウス・ブリューゲル(1617-75)
ヤン1世と後妻カタリーナとの息子
イタリア修業後、アントウェルペンで画家として花の絵を得意としていました。

ダーフィット・テニールス2世(1610-90)
ヤン1世とカタリナとの娘婿
一族との血縁関係はありませんが、農民の風俗画を描きブリュッセルの宮廷画家になりました。

ひ孫の代へ

ヤン・ピーテル・ブリューゲル(1628-80以降)
ヤン2世の子
祖父のヤン1世と同じく花の絵を得意としていました。

アブラハム・ブリューゲル(1631-97)
ヤン2世の子(ヤン・ピーテル・ブリューテルの弟)
イタリア、ナポリに住んでいた。祖父譲りの写実主義な静物画が人気がありました。

ヤン・ファン・ケッセル1世(1626-79)
ヤン1世の娘の子
花の絵、農民画を得意とし、昆虫を標本のように精密に描きました。

美術展の内容

展覧会は全部で7つの章に構成されています。特に気になった作品を紹介しています。

第1章 宗教と道徳
師匠のピーテル・クック・ヴァン・アールストの工房作品や、ピーテル1世の版画の下絵などが展示。版画下絵のピーテル1世の「最後の審判」は22.5x29.4cmと小さなものながらも、スケールが大きい作品。審判を受けた人の列が絵の奥へ奥へと繋がっていっているのを目をこらしながら見ました。今ならCG で制作されるような世界観を1つ1つ手で表現しているすごさを感じました。

第2章 自然へのまなざし
主に風景画を展示。特に気になったのはヤン・ブリューゲル2世の「市場からの帰路につく農民たち」。板に貼り付けた高価な銅板に油絵具で描かれているこの作品は12.7X15cmという小ささ!そして細かい!小さい作品ながら、空気遠近法によって壮大な自然を描いているのです。最近美術館のミュージアムショップで目にする単眼鏡やっぱり買おうかなーと思ってしまいました。

第3章 冬の風景と城砦
ピーテル2世の「鳥罠」が目玉でしょうか。題材のオリジナルはピーテル1世の「鳥罠のある冬景色」。ピーテル2世のコピーの中でもっとも需要の高かった作品です。冬の風景というジャンルを確立して、風景画の歴史に大きな影響を与えた作品です。

第4章 旅の風景と物語
ピーテル1世の版画下絵「イカロスの墜落の情景を伴う3本マストの武装帆船」は船の細部まで描かれていて見応えたっぷりです。あまりの正確さゆえ海洋史家が当時の船の細部を知る貴重な資料になっているのだとか。

第5章 寓話と神話
ヤン1世の友人でもあったルーベンスの工房の「豊穣の角をもつ3人のニンフ」という作品も展示されていました。ヤン2世の「地上の楽園」は美しい風景画の中に様々な動物たちが2体づつ描かれている想像上の世界。この章では抽象的な愛や平和や豊穣といった概念を擬人化して描いている作品が展示されています。

第6章 静物画の隆盛
豪華な花がとにかく美しいこの展示室。花だけでなく花瓶の模様までとにかく細かく描かれています。水滴や昆虫までもが描かれていて、ぜひじっくりと見てもらいたいです。そしてヤン・ファン・ケッセル1世の大理石に描かれた昆虫の作品はまるで標本のような精密さです。

第7章 農民たちの踊り
チラシにも使われている「野外での婚礼の踊り」をはじめ農村風景画がたくさん。労働の風景、非日常的なお祭りやお祝いの風景など、とにかく飾ることなく人々の風景画そのままに生き生きと描かれています。

ブリューゲル展巡回について

ブリューゲル展 画家一族150年の系譜
豊田市美術館
2018年4月24日(火)〜7月16日(月・祝)
公式ホームページ

この後の巡回
札幌芸術の森美術館
2018年7月28日(土)〜9月24日(月・祝)

広島県立美術館
2018年10月8日(月)〜12月16日(日)

郡山市立美術館
2019年1月11日(金)〜3月31日(日)

美術館が違うと同じ展覧会でも雰囲気が変わります。復習したのちもう一度別の美術館に行ってみようと思っています。Instagramで交流させていただいている郡山にお住いの方が、郡山市立美術館の期間中は、ブリューゲルの冬景色と同じような風景になりますよ!と教えてくださいました。

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