西洋美術のためのキリスト教。
今回はキリストの誕生シーンを描いた絵をご紹介します。
描いた画家は、ジョット・ディ・ボンドーネ。
中世のキリスト教美術から、ルネサンス美術へと絵画が大きく流れを変えるきっかけを作った画家です。
まずは、キリスト降誕にはどんな背景があるのかを知ってから、ジョットの絵を見ていきましょう!
イエスの誕生の場面を描いた「キリストの降誕」
イエスの誕生の場面をあらわす作品はふつう「降誕」というタイトルになっています。
英語では 「The Nativity」と言います。
イエスは名前
キリストは救世主という意味です
それではキリスト降誕の物語を見ていきましょう。
聖母マリアは神から選ばれて、救世主となるイエスを身ごもったことを告げられました。
その場面が描かれたのが、「受胎告知」です。
その頃ローマ帝国の皇帝アウグストがユダヤ全土に住民登録の命令を出していました。
マリアの夫のヨセフは、住民登録のためにガリラヤ地方の町ナザレから、臨月を迎えたマリアを連れて自分の故郷でであるベツレヘムへ向かいました。
ベツレヘムは当然ながら登録のため帰郷した人たちでごった返していて宿は満室。
泊まるところもなく、産気づいたマリアは男の子を馬小屋で産んだのです。
産まれたイエスは布にくるまれて、飼い葉桶に寝かされました。
馬小屋ということになっていますが、そのころは洞窟を家畜小屋に使用していることも少なくなかったので、ゴツゴツとした洞窟が描かれている場合もあります。
飼い葉桶というのは、家畜の餌をいれておく桶のことです。
そのためキリストの誕生場面は家畜小屋になっていて、牛やロバに見守られて描かれていることが多いのです。
ジョットの描いたキリスト降誕
絵の情報
「キリスト降誕」
ジョット・ディ・ボンドーネ
1305年ごろ
イタリアのパドヴァにあるスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画
ジョットはごつごつした岩場の、粗末な家畜小屋で横たわるマリアとイエスを描いていますね。
手前に座っているのはヨセフで、座り込み眠っています。
彼らの周りには、牛、ロバ、羊や山羊などが様子を見つめているようです。
空にはイエスの誕生を喜ぶ天使たちが大げさなくらい喜びを表現しています。
ジョットは中世イタリアの美術から、ルネサンス美術への橋渡しをした、美術史の中でもとても重要な画家の1人です。
なぜなら、それまでの形式的で抽象的だった絵画の表現から、人間的な表現に深みを持たせたからです。
たとえば、私たち人間には悲しみ、驚き、喜び、怒りなどさまざまな感情がありますが、その人間的な感情を豊かな表情や身振りなどで表現しました。
聖母マリアやヨセフという聖人でも、光輪(頭の後ろについている金の輪のことです)はついてはいますが、人間らしい表情や態度で描かれているのがわかりますよね。
無事にイエスが誕生して、疲れ果てて眠ってしまったヨセフの姿。
イエスを優しく見つめているマリアのまなざし。
そして空には天使たちも体いっぱいに喜びの感情を表現しています。
感情表現だけではなく、自然な陰影をつけることで、衣服の中にある人間の肉体を的確に表現することに力を入れました。
ヨセフの衣服は影の部分は濃い黄色が使われて、白を使った明るい部分とを分けることで座り込んでいる複雑な姿勢を描いています。
ルネサンスの美術と比べると遠近法としてはぎこちなさもありますが、岩場に建つ小屋には十分な奥行きを感じられませんか?
キリスト降誕の次にくるのは「羊飼たちへのお告げ」です。
羊飼いの前に天使が現れて救世主の誕生を告げるというシーンです。