絵を見ていて、この絵バランスが良いなぁと感じるその理由は、隠された構造線や形の反復にあります。
さっと見るだけではわからない、でもじっと観察してみると線や反復が見えてきます。
さっと見るだけではわからないというのは、画家がそれだけ自然に使って描いているからなんです。。
こちらの絵を見ながら説明していきますね。
「幼い洗礼者聖ヨハネと子羊」
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ
1660年〜65年
ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵
栗色の巻毛の可愛らしい若き日の洗礼者聖ヨハネと子羊が描かれています。
洗礼者ヨハネは、イエス・キリストに洗礼を施した人。
聖書の中では、荒野で、ラクダの毛皮を着て、腰に革の帯を締め、いかなごと野蜜を食べ修行していたと記されています。
そして足元には彼のアトリビュート(持ち物)である十字架が。
彼の左手は天を差しています。まもなく救世主が到来しますよと。
子羊はイエス・キリストの象徴です。
イエスを神の子羊として描く伝統が古代よりありました。
羊は旧約聖書の中でも神への生け贄の動物であったこと、そしてイエス・キリストが人類の罪をつぐなうために生け贄として十字架にかかったことと関係します。
ここでは、洗礼者ヨハネと子羊との信頼関係を思わせるように描かれていますよね。
2つを結びつけている部分が、この絵のフォーカスポイント。
絵全体がバランスが良いなと感じるポイントを2つご紹介します。
まずは形の反復です
赤の四角で囲んだ部分。
ヨハネが立っている岩と子羊のいる岩。そして左上部の雲の形。
はっきりと同じ形ではないですが、似たような形で反復されているのがわかりますか?
きっとこうやって見ていると、子羊と雲の形、子羊と洗礼者ヨハネの衣服の裾部分の形も似ているようにも見えてきます。
このように同じ形を繰り返すのには、この絵の重要なテーマを強調するためであったり、規則性を持たすためにそうしていることがあるようです。
私たちは同じ形が揃っているのを見ると、整然としているとか美しいなと思いませんか?
子羊はこの絵の重要なテーマでもあるので、岩や雲の形とそれとなく合わされているのも納得ですよね。
絵の構造線にも注目してみましょう
縦横と斜めに線を引いてみます。
どうですか?
描かれている色々な要素が線に揃っていたり、線で囲まれた枠の中に入っていませんか?
たとえば、上の逆三角の角の部分には、子羊の頭とヨハネの指が。
そして下の三角の角の部分には、ヨハネの腕と子羊の脚の結びつき部分が。
横線は空と岩場の暗闇部分を分けています。
次は気になったのでヨハネの指と十字架の交差部分に線を引いてみたら、ここもほぼいい感じで揃っているのがわかりませんか?
厳密に線を引いたわけではないので少しずれはあるかもしれないのですが。
左の線はヨハネの腰の線や、子羊の顔の線にも合っています。
そしてもう一つ。
こちらは岩場に置かれた十字架の線。
ヨハネの足元のライン、腕のライン、目のラインに揃ってる。
そして目のラインは天を差している指にも合ってますね。
名画がバランスよくすっきりとまとまっている理由。何となく分かっていただけたでしょうか?
優れた画家はこういうことを丁寧に考えて描いているんですね。
でも構造線にモチーフを揃えていくことも、形を反復していくこともやりすぎると不自然になる。
揃っているけれど自然に見せるかが力の見せどころですね。
ここで書いたような形の反復や構造線のこと。
とても詳しく書かれた本があります。
興味を持たれた方はぜひ読んでみることをオススメします。
名画に私たちが惹きつけられるわけがよくわかりますよ。
「絵を見る技術」
秋田麻早子著
朝日出版社