ピエール・ボナールの作品が約130点も集まる大回顧展が東京の新国立美術館で開催中です。
ボナールはものすごく知られた画家ではないかもしれません。
それでも、印象派以後の作品の展覧会や、その時代のコレクションをもっている美術館では彼の作品を見る機会が多いのです。
私も最近では、「ビュールレ・コレクション」、「プーシキン美術館展」や、ヤマザキマザック美術館でもボナールの作品を見ました。
実はそれまではあまり印象に残らなかったボナールの作品。
美しい色彩や装飾的な画面、ぼんやりとした構図、遠近法のない平らな画面は、本やWebでは魅力が伝わらない。
美術館では、周りの個性的な作品に目をとられさっと通り過ぎてしまうことも。
でも展覧会を見ながら、色や装飾的な美しさに目をうばわれ、構図のおもしろさにうなったり、ぼんやりとした画面から浮かびあがってくる発見にあ!と喜んだり(猫がいるんですよー意外なところに)。
またマルトや他の女性との関係から、多くの裸婦像が生まれていったことを知り、晩年の風景画で画家として成功していたんだなと知りました。
ピエール・ボナールを深く知ることができ、その作品の魅力を伝えるこの展覧会で、すっかりボナールのファンになってしまいました。
ピエール・ボナール展の見どころ
今回の展覧会の見どころを一言でいうと、ボナールのすべてを知ることができるといった感じでしょうか。
初期の作品から絶筆の作品まで130点を超える作品が集まっています。
絵画だけでなく、写真、スケッチ、リトグラフのポスター、本のイラストなどもあります。
また、大型の風景画の作品も。
作品はもちろん、作品作りの過程や作品へのインスピレーションを、スケッチや自らが撮った写真から感じることができます。
そして家族、美術仲間、友人たちなど、ボナールがどんな人と過ごし、どんな風に彼らを作品に描いたのか見ることができます。
ボナールの人生と画家としての作品の移り変わりを見ていくことで、彼の作品の奥深い魅力を発見することができます。
ポイント的にあげていくと
- オルセー美術館からボナールコレクションが一挙来日。そのうちの30点は日本初来日なんだとか
- 「日本かぶれのナビ」と呼ばれたボナールの、日本の浮世絵からの影響
- ボナールと言えばパートナーのマルト。彼女に関する作品もたくさん
- 見ることの過程を作品にしたボナールの試みを探る
- ボナールの描いたたくさんの犬や猫
ピエール・ボナールとはどんな人なのか?
このころには、法律の道に進むことをやめて画家となることを決意します。
展覧会の構成
展覧会は7つのパートに分かれて、ボナールの作品が変化していく過程を見せてくれます。
1 日本かぶれのナビ
ボナールたちナビ派の画家はそれぞれの個性を活かしたニックネームのようなものがあったようです。
ボナールは、1890年の「日本の版画展」に影響をうけるのですが、そのことにより”日本かぶれのナビ”と呼ばれます。
左右非対称の構図、日常生活から描くテーマが取られること、装飾的要素を取り入れる、対象物の端を大胆にカットするなどの構図
日常に潜んでいる幻想性を描いた親密画も作られました。
2 ナビ派時代のグラフィック・アート
1889年にシャンパンの広告コンクールで優勝し、ポスターはパリの街中に張り出されたそうです。
そのポスターも展示されています。
ロートレックのポスター?と思いましたが、これがボナールが画家の道に進むきっかけとなった作品だったのです。
ボナールはロートレックにリトグラフを作るようにすすめたそうです。
その他にも本の挿絵や、制作した版画集も見ることができます。
3 スナップショット
1890年のはじめ頃から写真撮影をはじめたボナール。自ら撮影した家族の姿がたくさん残されていました。
そしてもちろん恋人マルトの姿も。
庭にいるマルトのヌードの写真はピンとがずれていたり、木で顔が隠れていたり、思い出として残す写真ではなく、写真の効果を試してそれが作品にも活かされているんだと。
ヴュイヤールとヴェネツイアの旅の写真やルノワールの写真もありました。
4 近代の水の精(ナイアス)たち
ボナールはたくさんの裸婦像を制作しました。
室内の美しい壁紙や調度品とともに、女性たちはベッドに横たわる姿や、美しくポーズを取るといった姿ではなく、無防備な姿で描かれています。
風呂に浸かってリラックスしている時、鏡の前で身体を拭いている時、バスダブにしゃがんでお湯を注いでいる?時など、ボナールはモデルに自由に動くことを求めていたそうです。
女の私から見るとこんな無防備な姿見られたくないし、描かれたくない!といった姿が多いこと・・・
ここでも鏡に映る女性が半分くらいしか見えなかったり、女性の後ろ姿も画面端ですこし切れていたり、画面左には室内の様子が描かれていたり、ボナールの大胆な構図を見ることができます。
5 室内と静物「芸術作品ー時間の静止」
ボナールは、私達がものを見る時、位置や奥行きをはあくする前に全体的に捉えるその感覚をキャンバスに描こうとしたそうです。
不意に部屋に入った時1度に目に見える物を描きたかった
そしてスケッチと記憶をたよりにアトリエで描くことをしていたボナールは、記憶が時間とともに変化していき、カンヴァス上で新たな発見がうまれ作品として定着する
そのことを時間の静止ととらえていたそうです。
6 ノルマンディーやその他の風景
1909年にヴュイヤールとともにジヴェルニーに住むモネに会いにいったボナールは、ノルマンディー地方のやわらかい光や壮大な風景に魅了されます。
そして1912年にヴェルノンという街に家を購入します。
モネの作品や、新しい家での暮らしは制作意欲をおおいに刺激し、ボナールの作品がどんどん風景画や海景画に移っていきます。
ボナールはこんな言葉を残しています。
印象派が私たちに自由をもたらす
7 終わりなき夏
1910年から30年ごろは、パリ、南仏のサン=トロペや、コート・ダジュールなどを渡り歩き作品を描きます。
そして1926年には、カンヌ近郊のル・カネに地中海を臨む家「ル・ボスケ(茂み)」を購入します。
1942年には長年連れ添って、出会いから32年たって結婚したマルトを亡くしました。
遺作となった「花咲くアーモンドの木」は、死の直前まで手をいれており、1947年に亡くなります。
実業家夫妻の邸宅を飾るための連作装飾画「水の戯れ あるいは 旅」
ロシアのコレクターイワン・モロゾフのための「夏」
ヘレナ・ルビンスタインの邸宅用に注文された「にぎやかな風景」
などボナールの作品の美しい色彩と装飾的な作品は、邸宅を華やかで豊かななものにしてくれること間違いなしだものなと納得しながらみていました。
まとめ
ボナールの印象が大きく変わった展覧会でした。
最初にも書きましたが、ボナールの作品の良さが私にはあまりわからなかったのが、今回の展覧会でボナールの奥深い魅力が発見できました。
さらっとみただけではよくわからないけど、何回もみるうちに発見がある、そんな作品たちなのです。
それは、ボナール自身も言っている
絵画、つまり視神経の冒険の転写
というものなのでしょう。
ちょっとむずかしいですが、ボナールは目が形や色をとらえてそれが何であるか、どこにあるかを認識する前の段階を絵にしようとしていたからです。
だからさらっと見るとぼんやりしていて、何だ??となる。
でもしばらく見ていると、また位置を変えたりしてじっと見ていると、色んなものがぼんやりとした中から浮かび上がってくる感じです。
浮世絵、写真、印象派の作品、女性たち、フランスの美しい風景
これらの要素がボナールの中で混じり合い、作品が生まれていったのだなと、一人の画家の壮大な人生を見せつけられた展覧会でした。
展覧会情報
オルセー美術館特別企画「ピエール・ボナール展」
国立新美術館
東京都港区六本木 7−22−2
会期:2018年9月26日〜12月17日
休館日:毎週火曜日
開館時間:午前10時〜午後6時
(毎週金曜日、土曜日は午後8時まで、ただし9月28日、29日は午後9時まで)
*入場は閉館30分まえまで
展覧会公式サイト:http://bonnard2018.exhn.jp/