西洋美術の宗教画 西洋美術史

西洋絵画で聖書の物語を読む「聖エミディウスを伴う受胎告知」カルロ・クリヴェッリ

「聖エミディウスを伴う受胎告知」
The Annunciation with Saint Emidius
カルロ・クリヴェッリ
Carlo Crivelli
1486年
ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵

一度見たら忘れられないような、個性の強い作品です。

鮮やかな色
リアルな描き込み
縦長の中に描かれた深い奥行き感
キャラクターのような人物の衣装や表情


絵の中で何が起こっているのかな?と興味をそそられませんか?

この絵には何が描かれているのか。
そして画家はどのように描いているのか見ていきましょう。

描かれているのは、「受胎告知」と1482年の実際の出来事

まず画面の手前に描かれているのは、新約聖書のエピソードの一つである、受胎告知(じゅたいこくち)の場面です。
受胎告知の場面に決まって登場するのは、聖母マリアと大天使ガブリエル。
処女マリアの前に神の使いである天使のガブリエルが降りたって、聖霊によってキリストを妊娠したことを告げるのです。
マリアはそのことを受け入れる。

絵の中では、マリアは室内で天使のお告げを聞いています。
建物の外にいるのは天使ガブリエル。
大きくて華やかな色の翼をもっているので天使だとわかります。

ではガブリエルの横の人物は誰でしょうか?

彼は、聖エミディウス。
この人物の話をするためには、もう一つの出来事を知っておくことが大切です。

1482年3月25日、イタリアの都市アスコリ・ピチェーノは、ローマ教皇 から期限付きの自治権を与えられることを知らせる文書が届きました。
奥の橋の上には2人の人物が描かれていて、今まさに届いたばかりの文書を高官が受け取り読んでいるところなのです。
文書を運んできた伝書鳩は、すでに植木鉢の横にある鳥かごに入れられている。
アスコリ市の守護聖人である聖エミディウスが、市の模型を持って受胎告知の場面にも描かれているのはこのためです。

この日を記念して、カルロ・クリヴェリ(1430?〜1494?年)は、アスコリのカトリック教会のためにこの絵を描いたのです。

見るものを楽しませる細かい描写と視線を上手く誘導する構図

この絵はもとは祭壇画として描かれているので、縦に大きな作品となっています。(207cmx146.7cm)
その縦長の画面に街の細い路地と深い奥行きの構図を見事に再現できているのが、カルロ・クリヴェリの熟練された遠近法によるものです。

線遠近法といって画面のすべての平行線がある一点(消失点と呼ばれます)に行き着くようになっています。
それが画面奥にある路地の突き当りの格子の前にいる人物の帽子のあたりです。
絵の中に実際に線を引いて見るとよくわかりますよ。

目には見えない線ですが、私たちの目はその線によって物語の画面の細部に視線を誘導されていています。

たとえば、その消失点の真上には、神からマリアへ結ぶ光線が出ているところが描かれています。
(ちょっと未確認飛行物体のような面白い物体になっていますね)
この光は建物を通り抜け、マリアを通って絵の右下端につながっています。
通路のタイルの線を見ながら視線をずっと奥に向けていくと、消失点へ、そしてアーチの上にいる人物へ視線が移動していきます。

格子の内側にある鉢植えのハーブや、画面左上の鳩が穴に頭を入れてこちらにお尻を向けているところも
遠近法をしっかりと使って描かれています。

画面下のウリとリンゴは、ウリはキリストの復活を、リンゴはアダムとイブが神を裏切った罪(原罪)とイエスによる救済を暗示しています。
また下の文字は、LIBERTAS (自由)ECCLESIASTICA (教会)という意味があり、教皇令で自治権を与えられ自由となったことを表しているのです。

フルーツ、大理石、タイル、建築資材、各種布地などそれぞれの物質の素材の描き方もため息ものの素晴らしさ。
金もふんだんに使われているので表面にキラキラとした光を感じます。
細部やキラキラ感は実物を見ないと体感できないところです。

祭壇画として教会に飾られていた絵

この絵は祭壇画として制作されました。

クリヴェッリが1487年から暮らした町アスコリ・ピチェーノの厳律フランチェスコ会女子修道院のために描かれた。
「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」図録より

祭壇画とは、神への供物を捧げるための祭壇という台の後ろや上部の衝立のようなものに絵や彫刻で作られたものです。

この絵はこれが一つの祭壇画ですが、ルネサンスの時代には複雑な構成の祭壇画も作られました。

複雑というのは、何枚もの板絵が組み合わさった祭壇画ということです。

中には組み合わさった絵がバラバラになって、世界各地の美術館などで所蔵されていることもあります。

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