「キリスト降誕」
ジョット・ディ・ボンドーネ
1305年ごろ
スクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画
西洋美術史のためのキリスト教。
今回はキリストの誕生シーンです。
キリスト誕生の場面を描いたキリストの降誕
キリストの誕生の場面をあらわす作品はふつう「降誕」というタイトルになっています。
英語では 「The Nativity」と言います。
それではキリスト降誕の物語を見ていきましょう。
聖母マリアは、神さまから選ばれて神の子供で救世主となるイエスを身ごもったことを告げられました。
その頃ローマ皇帝皇帝アウグストがユダヤ全土に住民登録の命令を出していました。
マリアの夫のヨセフは登録のためにガリラヤ地方の町ナザレから、臨月を迎えたマリアを連れて自分の故郷でであるベツレヘムへ向かいました。
ベツレヘムは当然ながら登録のため帰郷した人たちでごった返していて宿は満室。
泊まるところもなく、産気づいたマリアは男の子を馬小屋で産んだのです。
生まれたイエスは布にくるまれて飼い葉桶に寝かされました。
馬小屋ということになっているけれど、そのころは洞窟を家畜小屋に使用していることも少なくなかったので、ゴツゴツとした洞窟が描かれている場合もあります。
そしてこの飼い葉桶というのは、家畜の餌をいれておく桶のことです。
そのためキリストの誕生場面は家畜小屋が描かれ、牛やロバに見守られています。
ジョットの描いたキリスト降誕
ジョットはごつごつした岩場の、粗末な家畜小屋で横たわるマリアとイエスを描いています。
ヨセフは外に座り込んで眠っいて、その横ではロバや羊などが聖母子を見守っていますね。
空にはイエスの誕生を喜ぶ天使たちが大げさなくらい喜びを表現しています。
ジョットはビザンチン様式とルネサンスの芸術の橋渡しをした、美術史の中でもとても重要な画家の1人です。
それは、それまでの形式的で抽象的だった絵画の表現から、人間的な表現に深みを持たせたからです。
たとえば、私たち人間には悲しみ、驚き、喜び、怒りなどさまざまな感情がありますが、その人間的な感情を豊かな表情や身振りなどで表現しました。
キリスト教の登場人物である聖人でも、人間として表現しているのが見てわかりますよね。
無事にイエスが誕生して、疲れ果てて眠ってしまったヨセフの姿。
マリアはイエスを優しく見つめているまなざし。
天使たちも体いっぱいに感情を表現しています。
また自然な陰影をつけることで、衣服を中にある人間の肉体を的確に表現することに力を入れました。
ヨセフの衣服は、影の部分は濃い黄色が使われて、白を使った明るい部分を分けることで座り込んで複雑な姿勢を描いています。
遠近法としてはまだ未熟ながらも、岩場に建つ小屋には十分な奥行きを感じられます。
キリスト降誕の次にくるのは「羊飼たちへのお告げ」です。
羊飼いの前に天使が現れて救世主の誕生を告げるというシーンです。