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「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」美術展レポートー1人の男の集めた西洋美術300年の歴史を見る

会期終了までわずかになりましたがやっと「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」を名古屋市美術館で見てきました。
印象派の作品を中心に、印象派へとつながる少し前の時代の画家の作品から、印象派と抽象絵画への橋渡しをした作品まで、全64点の充実の内容でした。
コレクターであるエミール・ゲオルク・ビュールレ氏の視点からみた、絵画表現が互いの影響によって発展していく壮大な西洋美術300年の歴史が見ることができました。

みどころ

・全64点の作品のうち半数は日本初来日

・2008年、世界的に報じられた4点の絵画盗難事件以来、一般公開が規制され、2020年にチューリヒ美術館に全コレクションが移管されることになりました。
作品はすべて無事に戻りましたが、今回はビュールレコレクションの全体像が国外でみられる最後の機会

・その盗難にあった4作品すべて来日
モネ「ヴェトゥイユ近郊のヒナゲシ畑」
ドガ「リュドヴィック・ルビック伯爵とその娘たち」
セザンヌ「赤いチョッキの少年」
ゴッホ「花咲くマロニエの枝」

・印象派の先駆者の作品や印象派とモダンアートへの橋渡しの役割をはたした作品も展示し、美術史の流れがわかる
ルノワール、モネ、ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャン、ピサロ、ドガ、アングル、カナレット、マネ、ドラクロア、シスレー、ロートレック、ブラック、ピカソ・・などの豪華な顔ぶれの作品が並ぶ

ビュールレ・コレクションとは

実業家エミール・ゲオルク・ビュールレ(1890年〜1956年)ドイツに生まれ、銀行家の娘と結婚後スイスのチューリッヒで暮らします。1935年からエルリコーン・ビュールレ工作機械社を立ち上げ、その後かねてからの夢であった美術品の収集を終生おこないました。

彼の会社は武器の納入業者として成功。納入先にはナチス・ドイツも含まれていました。

彼のコレクションはチューリヒにある邸宅の隣の別棟に飾られていて、彼の死後は美術館として一般公開されました。しかし2008年、世界的に報じられた4点の絵画盗難事件以来、一般公開が規制され、2020年にチューリヒ美術館に全コレクションが移管されることになったのです。

スイス国外にコレクションがまとまって公開されたのは過去に数回のみ。今回は移管前に特別に行われたビュールレコレクション全体像がみられる最後の機会なのです。

ビュールレ氏はプライベートコレクションについて、正確な言葉はわかりませんが、個性的な組み合わせで独特なまとまりを作るとその価値について表現していたそうです。
コレクターの好みと視点から集められた作品は、美術館や本でも見ることができない唯一の組み合わせ。そこからまた新たな視点で作品を鑑賞し、別の発見につながっていくプライベートコレクションの面白さを感じました。

のちに購入した13点の作品が第二次世界大戦中、ナチス・ドイツに没収されていた略奪品だったことがわかります。ヒトラーには美術館を作るという野望があり、たくさんの美術品をヨーロッパ中で略奪していたからです。裁判では略奪された作品であると知ることはできなかったことで勝訴し、作品も元の持ち主と交渉し購入したしたりと正式な手続きも踏まれたそうです。

展示会構成

展覧会は10つの章からなっていました。

第1章:肖像画
17世紀のオランダの画家フランス・ハルスの肖像画や、19世紀初頭新古典主義のドミニク・アングルの肖像画からルノワールやドガの肖像画まで。

第2章:ヨーロッパの都市
印象派の先駆者としてビュールレが見ていたグァルディ、同時代のカナレット、シニャッックのヴェネツィアの風景表現の比較など

第3賞:19世紀のフランス絵画
画家が主題よりどのように描くかに重きをおくようになった、コロー、ドラクロワからマネの絵画

第4章:印象派の風景
ピサロ、シスレー、マネ、モネの印象派が得意とした風景画

第5章:印象派の人物ードガとルノワール
ドガとルノワールの作品。ここに話題のイレーヌ嬢の肖像画が飾られていました。

第6章:ポール・セザンヌ
セザンヌの作風の移り変わりが見られます

第7章:フィンセント・ファン・ゴッホ

ゴッホの短い画家としての中の、パリに行く前の時代の作品もありました。

第8章:20世紀初頭のフランス絵画
印象派のから発展していく20世紀のロートレック、ピカソ、ヴュイヤール、ゴーギャン、ボナールの作品

第9章:モダンアート
セザンヌやゴッホなどから影響を受け、抽象芸術への道をつくるヴラマンク、ドラン、ブラック、ピカソの作品

第10章:新たなる絵画の地平
ビュールレがチューリッヒ美術館で見た作品を遺族から購入した、モネの睡蓮

 

気になった作品

良かった作品はたくさんありましたが、その中でも個人的に新たな発見があったものをピックアップしました。

①ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル
「アングル夫人の肖像」1814年頃
アングルの完璧で少し冷たいくらいの美しい女性の作品も好きだけど、夫人の肖像画は、優しい微笑みをたたえた夫人の魅力を存分に伝えていた。夫妻は仲が良かったそうです。

②フランチェスコ・グァルディ
「サン・マルコ沖、ヴェネツィア」1780−85年
ヴェネツィアの絵画にはいつも強く引き寄せられるほど大好きです。ビュールレ氏がグァルディの筆使いに印象派の先駆者としての見ていたというとこり、素早い筆使い、明暗を使い輪郭を描くのではなく、大気や物の形を表現している。並んでいたカナレットの作品と比べるととてもよく分かりました。カナレットは大好きなのであえてあげません笑

③エドガー・ドガ
「控え室の踊り子たち 」1889年頃

バレリーナのチュチュが光に透ける様子や少し空いているドアからわずかにに光が入り込む表現が美しかった。

④ピエール=オーギュスト・ルノワール
「イレーヌ・カーン・タンヴェール嬢」1880年
これは文句なしに可愛くて美しい!実物見てますますそう思いました。栗色の髪の毛、透けるような肌。白い目の周りにまつ毛もくっきり。これがさらに可愛らしさを強調している。
こんな素敵な肖像画なのに、依頼主のイレーヌの両親はこの作品が気に入らなかったなんて。両親は伝統的な肖像画を望んだのでしょうか?
彼女はユダヤ人銀行家のルイ・カーン・ダンヴェール伯爵の長女、イレーヌ(1872-1963)。この肖像画が描かれた時は8歳というけど、大人びた雰囲気がありますね。イレーヌは戦争を生き延びましたが、家族の多くは強制収容所で亡くなりました。彼女の肖像画がビュールレによって購入されたことに美術品の数奇な運命を感じます。

⑤フィンセント・ファン・ゴッホ
「古い塔」1884年
シンプルな絵だけどなぜか気になってしまいました。その後取り壊される教会の寂しい姿。でも後ろの方から見ても空の色が明るく白く浮かんでいて、目が離せなくなりました。ゴッホがパリに向かう前のオランダのニューネンにいた頃の作品。この頃のゴッホは労働者や農民の素朴な生活を見つめた作品を残しています。

⑥ピエール・ボナール
「室内」1905年
ボナールは室内の絵をたくさん描いていますが、こちらは装飾的な室内風景というより色彩も落ち着きシンプルな作品。でも何気ない日常の室内の様子ですが、女性の背後にある大きな鏡が印象的で不思議な雰囲気を感じました。

 

まとめ

プライベートコレクションと聞くと、お金持ちの優雅な趣味という雰囲気もあるが、海外の場合は規模や質、そしてリスクも半端なく大きい。
ビュールレの印象派・後期印象派への情熱と美術への確かな目がこのような素晴らしいコレクションを作って、私達に西洋美術の移り変わりを見せてくれている。
しかし、その資金源には戦争が関わっていることや、コレクションには略奪品もあったことは、美術品と歴史のたどってきた事実で、そのことは忘れててはいけないことだと思う。
ビュールレが作品を購入していた時期には、ルノワールやセザンヌの傑作もまだ購入可能な価格だったし、モネの睡蓮も装飾芸術として軽くみられ、通常の絵画の半分の破格の価格だったとか。
美術品の所有者の移り変わりや人々の美意識の変化が、芸術の価値観を変える。
そのようなことも考えながら見た貴重な機会でした。

 


INFORMATION

▫️展覧会名:至上の印象派展 ビュールレ・コレクション
▫️美術館:名古屋市美術館  愛知県名古屋市中区栄2−17-25
▫️会期:2018年7月28日(土)から9月24日(月・休)
開館時間:午前9時30分~午後5時 (毎週金曜日は午後8時まで) ※入館は閉館の30分前まで
▫️休館日:月曜日、9月18日(火)(ただし、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、9月24日(月・休)は開館)

 

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